辛い過去ゆえに頑なになってしまった“オトナ”が敵役
そんな“イマドキの価値観”の敵役として描かれていたのは悪の組織「クライアス社」。幹部たちは「係長」「課長」「部長」といった役職で呼ばれ、現実の会社組織同様、“稟議”を通さないとプリキュアを倒しに行けませんし、怪物は“発注“して呼び出します。
また“報・連・相”を行わない上司を部下がたしなめたりもしました。
そして、社員はみんな辛い過去を背負っています。最愛の娘を失った悲しみで代替のアンドロイドを作ったドクター・トラウム、愛する男性に裏切られ、認められたい思いで暴走するパップル、「何の才能も無い中途半端な自分」というコンプレックスの裏返しでチャラ男を演じ他人に強くあたってしまったチャラリート。
彼らは辛い過去ゆえに頑なになってしまった“オトナ”そのもの。新しい価値観を阻害しているのは、もしかしたら自分たちなのではないか?とドキッとするところもあるのです。
ほかにも“疑似家族”を描き、家族の形は1つじゃない事を示した「魔法つかいプリキュア!」(2016年)。見た目も性格も年齢もバラバラの6人のプリキュアが、スイーツ好きという“大好きで繋がる”ことで固い絆を築いていく「キラキラ☆プリキュアアラモード」(2017年)なども話題になりました。
“新しい時代”に対応するためのヒントが詰まっている
「スター☆トゥインクルプリキュア」の東映アニメプロデューサー柳川あかり氏は、朝日新聞2020年1月10日朝刊の記事で、プリキュアを製作する事に対し「正解は無く、常に模索し続ける」としながら「誰かを傷つけた犠牲のもとに成り立つ面白さはあってはいけない」と語っています。
いま、現実でも性や国籍、家族、生き方に関する価値観が日進月歩でアップデートされています。なかには新しい価値観に戸惑い、どう対応すればいいのか悩む方も多いのではないでしょうか。しかし、プリキュアには、そんな“新しい時代”に対応するためのヒントが詰まっている。だからプリキュアは正解のない日々のなか、必死に働く大人たちに響いているのです。
悪い奴らに生き方を否定されても「そんな事ない!」と何度も立ち上がり、大切なものを守るために戦う少女たちの姿は、それだけで号泣ものです。ひたむきなプリキュアの姿に、われわれ大人は自己を顧み、励まされ、今日も頑張って生きていこうという活力がもらえるのです。
※記事に一部誤りがありました。P.3の『「HUGっと!プリキュア」の東映アニメプロデューサー柳川あかり氏』は、正しくは『「スター☆トゥインクルプリキュア」の東映アニメプロデューサー柳川あかり氏』です。関係者並びに読者の皆様にお詫びして訂正いたします。(10月13日0時30分)