新型コロナは「治療効果を示すのが難しい」やっかいなウイルス
さて、ここからが難問です。
多くのウイルス感染は、感染早期、発症早期に治療するのがよいとされます。「早期発見、早期治療」です。COVID-19も例外ではなく、効果的な抗ウイルス薬、あるいは別のメカニズムの治療薬は、発症早期に用いてこそ、その効果を発揮しやすい。感染が進行して、重症化して、肺の炎症や血栓形成が進み、サイトカインと呼ばれる体内物質が体中に炎症と臓器障害を起こしてからでは、いくらウイルスをやっつけても、体は回復しにくい。
しかし、先ほども言いましたように、COVID-19は8割がた、自然に治ってしまう、全体で言えば「軽い」感染症です。一部の患者だけが重症化してしまう。「自然に治ってしまう」病気を「さらに良くする」のは困難です。
よって、ある治療薬を「発症早期」に試してみた場合、この治療薬の効果を示すのは容易ではありません。それは、シンプルに「自然に良くなる病気をさらに良くするのは難しい」という事実から来ています。
かといって、重症患者に的を絞るのも問題です。
重症患者に的を絞れば、パワフルな効果、例えば「死ぬ」を「死なない」に転じる効果を示しやすくなります。「死なない」病気を「さらに死ななく」するのは困難ですが、「死ぬ可能性が高い」病気を「死ににくい」病気に転じる効果は、統計的には示しやすいからです。
しかし、多くの場合、重症化は発症後1、2週間経ったころに起きます。重症者ではすでに臓器障害や呼吸機能障害といったいろいろな問題が発生しており、これをひっくり返すのは、単にウイルスの活動を抑えるだけでは難しい。「遅れた治療を取り戻す」のは難しいのです。
というわけで、新型コロナウイルスは、感染症薬の治療効果を示すのが本質的に難しい、とてもやっかいなウイルスということになります。ほんと、こいつ、たちが悪い。
統計的な差と、臨床的な差
さ、そういうわけで、いろいろ大変なのですが、治療薬を検討していきましょう。見当ポイントは以下のようなものです。
・薬のメカニズム
・誰に薬を用いたか
・比較はあるか
・結果はなにか
なお、「結果」については「統計的な有意差があるかどうか」が一つのポイントになりますが、「臨床的に意味のある差」かどうかも、さらに重要なポイントになります。
統計的な有意差とは、「まぐれではないと考えるほうが妥当な、確実な差」ということです。