手指消毒、マスク着用、ソーシャルディスタンス……新型コロナウイルスとの長期的な対応にあたって、生活には新たな規範が求められ始めた。それだけに私たちは新型コロナウイルスについて「分かったふり」をするのではなく、しっかりと「分かる」ことが大切になるといえるだろう。ここでは、新型コロナウイルスの感染が広がったクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号に一時乗船した感染症医としても知られる岩田健太郎氏による著書『丁寧に教える新型コロナ』(光文社新書)から、これからの音楽イベントのあり方について、専門家としての見地を引用し、紹介する。

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「一般解」と「特殊解」に分けて考える

 もしも~ピアノが~弾けたなら~♪

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 ……というわけで、ぼくは音楽関係についてはいろんな意味でド素人です。歌もろくに歌えませんし、どの楽器もまともに扱えません。

 また、音楽業界の仕組み、構造も知りません。どのくらいの頻度でどのくらいの集客力のある場所でどういう金額でのコンサートをやる、やり続けるのが、アーティストや音楽関係者たちの生活を支えるのに必要なのかも、存じません。

 もちろん、ぼくも音楽を鑑賞しますけれども、どちらかというと家でレコードを聞く「ひきこもり」派で、ライブハウスに行ったり、好きなアーティストを追いかけたりする習慣を持ちません。

 ですが、先日もある方面から「安全にコンサートを開催するには」という問い合わせを受けていたので、素人なりにいろいろ調べてみました。

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 こういうときは、「一般解」と「特殊解」に分けて考えるのが大事です。

 一般解とは、音楽に関係なく、集団を形成することで生じる新型コロナウイルス感染のリスクと、そのリスクヘッジの方法です。

 特殊解は、コンサート会場であること、音楽活動をやること「そのもの」がもたらす特殊なリスクです。おそらくは、楽器演奏がこれに当たるのではないかとぼくは想像します。

 楽器演奏については、すでに株式会社ヤマハミュージックジャパンが新日本空調株式会社と実験しています。これを拝見すると、直感的にはたくさんの飛沫を撒き散らしそうな印象のある管楽器の演奏――トランペットとかトロンボーンとか――は、実はそれほど大量の飛沫を発生させないことが分かりました。頭の中で考える演繹法(机上の空論とも言います)だけでなく、ちゃんと実証してみる「帰納法」って大事ですね。

「歌」による感染リスク

 むしろ、問題は合唱などの「歌う」行為です。すでに、コーラスによるコロナウイルス感染のアウトブレイクが報告が報告されています(※閲覧日7月2日)。

 リスクゼロ、を希求するならば、やはり合唱など歌唱を伴う発表会は中止するしかないのですが、それはコミュニティの感染の程度との相談です。ウイルスがほとんど存在しない地域であれば、集団の数を減らし、時間を短くし、換気を十分にするという形でコンサートを開催できるかもしれません。

 そんなわけで、コンサート、その他の音楽活動においては、一般的な新型コロナウイルス対策を行うことが、最も堅牢かつ現実的な感染対策なのだと考えます。