日本において新型コロナウイルスの初感染者が報告されて、はや9ヵ月もの時間が経つものの、終息に向けての光明は見えていない。より長期的な対応が求められるフェイズになっているといえるだろう。待ち望まれるのは感染症薬の完成だが、果たして実現は可能なのか、また、その効果はどのように実証されるのか。新型コロナウイルスの感染が広がったクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号に一時乗船した感染症医としても知られる岩田健太郎氏による著書『丁寧に教える新型コロナ』(光文社新書)から本文を引用し、紹介する。
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治療効果の吟味は「比較」から始まる
最後に、COVID-19の治療についてコメントしておきます。ただ、本稿執筆時点(2020年7月3日時点)では「これだ」という決定打がないのが現状です。たくさんの治療薬の効果が話題になっていますが、それは決定打が存在しないことの逆説的証左と言えましょう。女性週刊誌で毎週のように「新しいダイエット法」が話題になるようなものです。
以下、今のところ分かっている治療について、簡単にまとめておきます。
ただ、治療の研究は進歩が激しいので、本稿執筆後も新しい論文、データが多々出てくるであろうことは申し上げておきます。興味のある方は、最新論文も読んで知識をアップデートしてください。
さて、まず基本的なところをお話ししておきますが、治療の効果を吟味するエビデンスは、
比較
からできています。つまり、Aという治療をやった群と、やらない群の比較です。
比較は必須です。単に患者さんにAという治療を提供しただけでは、治療の効果は分かりません。特にCOVID-19は、大多数が「自然に良くなってしまう」病気です。Aという治療薬が効果を示したのか、単にAという薬を飲んだ患者が自然に良くなってしまったのか。治療行為だけを観察していたのでは、両者を区別することはできません。いわば、因果関係と前後関係の区別、と言ってよいでしょう。
治療“効果”とはいったい何なのか
次に、「効く」の「意味」を確認する必要があります。
一番よい「効く」は、パワフルな「効く」です。例えば、
死ぬ
が、
死なない
になるとか。これは「死亡を回避する」というパワフルな「効く」になります。
パワフルさが足りない「効く」もあります。例えば、
体温38℃
が、
体温37.5℃
になる、はどうでしょう。まあ、効果といえば効果かもしれませんが、それほどパワフルな効果ではありませんね。