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背筋がぴんと伸びた、凛とした女性
こんな風にぼうっと座っていたら、貴重な休みがあっという間に終わってしまう。
凪沙はゆっくりと頭をめぐらせ、壁にかけてあるトレンチコートを見上げた。
ベージュの少しマニッシュなデザインのトレンチコート。
ずいぶん昔に、ルミネで買ったものだった。セールにはなっていたけれど、それでも凪沙からすれば、ひゅっと一瞬鋭く息を吸うほど高かった。
レディースのブランドの服は丈などは十分でも、肩幅などが入らないことも少なくない。だから、袖を通して、肩がしっくりとおさまった時にはうれしかった。
そして、鏡で自分の姿を見た途端、値段のことなど頭からすっ飛んで、財布を開いていた。
背筋がぴんと伸びた、凛とした女性。鏡の中にいるのは、凪沙がそうありたいと願う女性だった。
それから、凪沙はずっとこのコートを大事に着続けていた。このコートを着ると、このコートに似合う自分でありたいと思うことができる。そんな気がした。
凪沙は丁寧に化粧をし、赤いワンピースを着ると、トレンチコートをはおった。きゅっとベルトを締める。軽く腰を絞ると、もともと軍用だったという無骨なトレンチコートのラインが、ぐっとやわらかくなった。
凪沙は鏡に映った自分の姿に小さく頷くと、赤いブーツに足を押し込み、家を出る。