マイノリティにもいろんな性格があって、いろんな好みがある
堂々と靴音を鳴らして靖国通りを歩きながら、凪沙はふとスマートフォンを手に取った。そして、途中まで操作しかけた指を止めると、苦い笑みを浮かべ、バッグに戻す。
瑞貴がスイートピーを辞めてからしばらくたつというのに、気づけば、瑞貴の声を聴こうとしている自分に気付く。電話番号はとっくに通じなくなっていたけれど、凪沙はその番号をどうしても消すことができないでいた。
凪沙はどんどん歩き続け、やがて二丁目にさしかかる。
道の角に「すき家」があり、その向こうはいわゆる日本一のレインボーロードが広がっている。
凪沙は夜のにぎわいが嘘のような、まるでひと気がないその道を横目で見ながら真っ直ぐ進んだ。凪沙は夜であっても、あまりこの道を通らない。LGBT、マイノリティと一口にいっても、様々だ。いろんな性格があって、いろんな人生がある。世の中でひとくくりにされていることには違和感があった。凪沙にとって、この通りは少し気後れする場所だった。
そのまま三丁目の交番を通り過ぎたところで、凪沙は少し立ち止まった。真っ直ぐ進むか、花園神社に寄るか、少し迷ったのだ。気分次第では花園神社にお参りにいくのだが、今日は気分ではなかった。
再び歩き出した凪沙は、自分が無意識のうちに目指していた場所に気付いた。足が向いている先にはあの場所がある。
(今日は映画を見よう)
そう心が決めようとしていた。
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※こちらの小説全文は10月26日(月)までの期間限定CHIZUSHOPで発売中の「限定版『ミッドナイトスワン』SPECIAL BOX」に収録されています。