LGBTQ――ひと頃に比べ世間の認知は上がっただろう。耳を塞ぎたくなるような差別の言葉も、そうは聞かなくなっただろう。だが我々は、本当に悩む人たちのことを分かっていたのだろうか。

「取材は相当重ねました。世間の光があたるようなところから、ほとんどの人がご存知ないようなところまで。当たり前のことですけど、色んな人がいますよ。たとえばテレビでよくあるようなステレオタイプの“オネエ”とされる人たちは、カッとなると低い声で野蛮な物の言い方になる。あれは“男に戻る”という演出ですね。作品にもトランスジェンダーの役者さんに出てもらったので、自分もそういう陳腐な間違ったイメージに囚われてたんだなと。恥ずかしかったです」

内田英治監督

 草彅剛がトランスジェンダー役を演じたことが大きな話題を呼ぶ映画『ミッドナイトスワン』(公開中)。内田英治監督は5年もの間構想を温めていた。

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「もともとバレエをテーマにした脚本が先にあって、このアイデアにトランスジェンダーの物語を組み合わせました。そっちのほうが、いいんじゃないかと思って。全体ができあがったのは5年前。構想5年というより、本当はどこも取り合ってくれなかっただけなんですけどね(笑)」

 主演の草彅はトランスジェンダーの凪沙という役。絶演ともいうべきその見事な演技が生まれた背景とは。

「僕はもともと、アメリカのミディアムバジェット(中規模予算)ムービーのファンなんです。日本の映画って、この層がないでしょう? 映画監督としてはなんとかこれを根付かせたいと思って、脚本抱えて交渉してたんですけどはかばかしくなくて。あーあ、やっぱり自主映画かあ、なんて思っていたら、まさかマイナーとは真逆の俳優さんが出てくれることになるとは思ってもみませんでした」