文春オンライン

連載クローズアップ

草彅剛の“トランスジェンダー役”はいかにして生まれたのか

『ミッドナイトスワン』内田英治(映画監督)――クローズアップ

note

「バレエのシーンの吹き替えは絶対やりたくなかった」

 主人公・凪沙は、ある事情で田舎からやってきた女子中学生・一果をあずかることになる。心に傷を抱える少女には、天性のバレエの才が宿っていた。

「バレエの世界ってそりゃあ厳しさが異常なまでに存在するところですよ。親も子も、持てるすべてをつぎ込む。バレエがなければ生きていけないという人たちが、ただひとつ、美でさえあればあらゆる不合理が許されるという観念で動いている世界です。だからこそ、絶対バレエのシーンの吹き替えはやりたくなかったですね」

 一果役にはオーディションで新人の服部樹咲が選ばれた。バレエの経験者であるとともに、新人離れした佇まいにも引き込まれる。

ADVERTISEMENT

「Netflixの『全裸監督』のときもそうだったんですが、どういうわけか新人のオーディションづいてまして(笑)。撮影中は大人しくしていたけど、芯がありますよ。バレリーナとしても世界を狙えるような位置にいた子なので、本当にラッキーパンチだったなと」

 都会の一隅で文字通りひっそりと暮らしていた凪沙が、一果と出会い、その才能を知って、変化が訪れる。抑制的な演出がテーマの重さを際立たせる。ゆえに、個々の演技、セリフ、なによりバレエシーンの美しさが胸を打つ。

「社会的なテーマを打ち出したつもりは全然ありません。役者にも、かっちり決まったセリフを言わせるのは好きじゃないので、結構な分量がアドリブです。こういう映画づくりがしたかったという僕の欲は出せたかなと思います。ただ、蓋を開けてみないとわからないのは、興収ですよね。単館上映を観に行く映画ファンに『いい映画だった』と言われるだけじゃ飽きたりないですよ。観てくださった人たちは褒めてくださるけど、僕は中規模予算映画が日本で浸透することが大事だと思っているので、ひとつ勝負している感覚はありますね」

うちだえいじ/1971年、ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。週刊誌記者を経て、99年脚本家デビュー。テレビドラマの演出を経て、映画作品を発表するようになる。監督作品に『グレイトフルデッド』『下衆の愛』などがある。

INFORMATION

映画『ミッドナイトスワン』
https://midnightswan-movie.com/

草彅剛の“トランスジェンダー役”はいかにして生まれたのか

週刊文春電子版の最新情報をお届け!

無料メルマガ登録