日本学術会議法第七条〈会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する〉〈第十七条 日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする〉
いわゆる首相の日本学術会議メンバーに対する任命権はこの特別法に基づいている。任命権とは文字どおり「任命する権利」であるが、そこには濃淡がある。憲法で定められた首相の任命権は天皇にあり、国会の「指名」に基づいて国事行為として任命する。「推薦」「指名」の違いこそあるが、どちらも形式的な任命であり、選定における罷免権、拒否権はない。
「候補者リストを見ていない」とまで言い出した
日本学術会議会員の選定についても「形式的な」任命権と法解釈されてきた。拒否権についても同様だ。そもそも戦時の反省を踏まえ、政治介入を許さない独立した組織を目指してつくられた日本学術会議の根本的な成り立ちからすれば、会員の人選に首相の拒否権はない。
つまり、菅政権が法の趣旨を都合よく変えているのである。驕りという以外にないが、この間のやり取りを見ていると、首相や政府の言い分にはあまりに屁理屈が多く、やはり分が悪い。
ついに首相の菅義偉は日本学術会議の提出した105人の候補者リストを見てもいない、とまで言い出した。その無茶な抗弁は、首相自身が任命拒否に関与していないと言いたいから付け足した理屈なのだろう。だが、となれば、いったい誰が拒否したのか、となる。
99人の任命を決めたときの内閣府の決済文書には、105人の推薦リストが添付されている。これでは首相が法で定めた推薦を無視し、6人の候補者の任命を拒否したことになる。案の定、日本学術会議法違反ではないか。記者団にそう突っ込まれた。