妹の勤め先にのぞき魔が出没したとき、俺は……
妹(76年生まれ)の勤め先にのぞき魔が出没して大騒ぎになったと聞き、「そんなのが出てくるところで働くからだろ」と言い放った俺。
交際していたシングルマザーが、朝食として幼い子どもにコンビニのサンドイッチを与えるのを見て呆れ果てたと語った知人(72年生まれ)。
高校生の頃、母(44年生まれ)が「パートでもやろうかな」と言い出したのを聞いて「別にお金に困ってないでしょ。そんなのやめなよ」と猛反対した俺。
10年前、妻が妊娠した喜びを「子どもは男がいいね。女だと生きていくのが大変だもん」と破顔しながら語った知人(72年生まれ)。
あの時の俺はハラスメントをしていたのかもしれない。あの時の彼は無自覚のミソジニーを振りまいていたのかもしれないと、鑑賞後もしばらくフラッシュバックと“気づき”は続いた。
やがて、いまも意識せずに浮かべた表情や送った視線など自分ではわからない“なにか”で女性に圧を与えるのかもしれないとも考え出した。
これは男性の萎縮だろうか、いや男性の“気づき”というアップデートと捉えるべきだ。
「甘い映画」の烙印を押す観客もいるかもしれないが
正直なところ、映画版はどこか楽観的な仕上がりであることは否めない。ラスト、小説家を夢見ていたキム・ジヨンは自身のことを綴った文章を世に放つ。諦念せず、躊躇せず、声を上げろという女性へのメッセージが込められているのだと理解できるが、「そんな才能があるのなら、まだ彼女はいいほうじゃないか」と甘い映画の烙印を押す観客もいるかもしれない。
また、主人公夫婦を演じるのがチョン・ユミとコン・ユという美男美女であることも、甘さに拍車を掛けているのかもしれない。でも、苦味だけの映画では観る人が限られてしまう。
それに、こうした作品は人種差別を訴えた作品と同様に必要なはず。
2018年度アカデミー作品賞に輝いた『グリーンブック』も白人の監督が上から目線で説教を垂れているだけ、ウェルメイドすぎると厳しい声が上がったが、アカデミー賞を獲り多くの人が観ることで差別や偏見は良くないという啓蒙に繋がっていくのだ。
劇場には妻にくっついてきただけのような男性客もいたが、観た後はなにかしら気がつくかもしれない。
それでも“女性の生きづらさ”を完全には理解できず、とりあえず「彼女や嫁がうるせーから」と理解したふりをするだけの男性もいるかもしれない。
でも、そんな偽装が生み出す空気がいつしか規範へと形を変えるかもしれない。
それはたいへん小さなことかもしれないが、女性の生きづらさがなくなる希望になるかもしれない。
INFORMATION
『82年生まれ、キム・ジヨン』公開中
© 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
監督:キム・ドヨン/出演:チョン・ユミ、コン・ユ、キム・ミギョン
原作:「82年生まれ、キム・ジヨン」チョ・ナムジュ著/斎藤真理子訳(筑摩書房刊)
2019年/韓国/アメリカンビスタ/DCP/5.1ch/118分
配給:クロックワークス
オフィシャルサイト:http://klockworx-asia.com/kimjiyoung1982/
オフィシャルTwitter:https://twitter.com/KimJiyoungJP