どこを見渡しても、誰もいない。まるで撮影の終わった映画のオープンセットのように、町並みだけが佇んでいる。
それまでのどかな高原地帯だった「清里」は、80年代後半にファンシーな雰囲気の漂う避暑地として人気を集め、若い女性たちが集うようになった。しかし、ブームが去ると町は徐々に衰退し、再開発されることもなく打ち捨てられてしまった。それがいまや写真映えのする「メルヘン廃墟」として評価され、一部の好事家たちを呼び寄せているという。(取材・文=素鞠清志郎/清談社)
(全2回の第2回/2回目を読む)
1988年ブームだった清里も、今や静かな「メルヘン廃墟」
そんな評判を聞き、儚くも不気味な廃墟タウンを散策してみようと清里に来てみたのだが、観光客はおろか人影がなく、開いている店もほとんどない。
平日の昼下がり、さらにアフターコロナという状況ではあるものの、まるで街ごと神隠しにあったような静けさは異様だった。
駅周辺の目抜き通りに数多くのお土産屋や飲食店が立ち並び、観光客でごったがえしていたというが、いまや物音ひとつ聞こえない。
瀟洒な佇まいで、名前の通りの清らかなイメージの清里駅舎。雰囲気は抜群だが、電車が着いても降りる人は数えるほど。
清里ブーム真っ只中の1988年7月21日に発行された『週刊明星』の特集記事を読むと、「まぶしいほどの高原の緑も、どこまでも続く青い空も、パステルカラーの駅前メルヘンタウンも、ぜ~んぶまとめて清里が好き!!」と書かれている。
それから32年後の清里には「高原の緑」と「青い空」は健在だが、「パステルカラーの駅前メルヘンタウン」は、どうなっているのだろうか。
駅を出て、道なりに下っていくと、二手に別れて商店街が連なっている。どうやらこの一帯がメインストリートだったようだが、いまは冷たいシャッター通りと化している。
右も左も、どこまでいっても、店は1軒も開いていなかった。
駅前はちょっとした広場のようになっており、可愛らしいバスが2台停まっていた。これに乗れば周辺を回れるのかと思って近づいてみたが、すでに廃止になっているらしく、停車というか、車両が展示されているだけだった。
運転席に掲げられていた説明によると、このバスは2017年までは運行しており、以降はこの場所に設置されているという。
1999年から2017年まで使われていたというピクニックバス。トラックを改造したもので、乗り心地は穏やかではなかったと説明されている。