どこを見渡しても、誰もいない。まるで撮影の終わった映画のオープンセットのように、町並みだけが佇んでいる。
それまでのどかな高原地帯だった「清里」は、80年代後半にファンシーな雰囲気の漂う避暑地として人気を集め、若い女性たちが集うようになった。しかし、ブームが去ると町は徐々に衰退し、再開発されることもなく打ち捨てられてしまった。それがいまや写真映えのする「メルヘン廃墟」として評価され、一部の好事家たちを呼び寄せているという。(取材・文=素鞠清志郎/清談社)
(全2回の第2回/1回目から読む)
清里メルヘン廃墟群のランドマーク「MILK POT」
まるで壁のような立ちはだかる「隆磯亭」を過ぎると姿をあらわしてくるのが、いまや清里メルヘン廃墟群のランドマークともいえる「MILK POT」だ。
その名の通り、ポット型の建物で、鳥山明の漫画『Dr.スランプ』あたりにインスパイアされたと思われるデザイン。当時もインパクトがあっただろうが、現在の佇まいもなかなかショッキングだ。
当時はメルヘン感が溢れていたと思われるが、いまでは出土した土器のような粗肌をさらしている。
特筆すべきは、店内がほぼそのまま残されていること。中を覗くと、売れ残った土産物や、くたびれたクマのぬいぐるみなどが打ち捨てられており、ダークなメルヘン感を醸し出している。
クマが虚空をみつめる。カウンターにあるCDラジカセもたまらない。