「フォアグラエスプーマもり」とは何か
かき揚げなど天ぷら系のもりそばは人気メニュー。天ぷらはきれいに揚げられて別皿で提供される。器もみなゆったりしていて、食べやすい。
喜乃字屋を代表するのが、かわり蕎麦「フォアグラエスプーマもり」(980円)である。最初に食べた時はすごく衝撃的だった。玉子や納豆をメレンゲ状にするそばはあったが、フォアグラを使ったそばは聞いたことがなかった。クマガイコーポレーション営業本部長の熊谷弘子さんに聞くと「そばのヌーベルキュイジーヌを目指したんですけどね、最初は『エッ?』って反応しかなかったんです」と笑う。しかし、その味は秀逸だった。
ムース状のフォアグラソースがつけ汁を覆い隠すように載せられて、さらに山椒粉がパラパラと。トレイには山椒粉の容器が添えられてある。
ひと口、そばをつけて食べてみる。そばにからむフォアグラのムースは、口に入ると同時に旨みを残し、淡雪のように消えていく。そして、ほんのり山椒粉の香りが広がる。何とも言えない新しい食感である。山椒粉が和の味に引き戻してくれるような感覚がおもしろい。
スペイン料理で使われる手法を日本そばに応用してみようということなのだろう。食べ進むうちに山椒粉をさらに振りかけていくのがよい。山椒粉だけでなく、黒胡椒や黒七味も合いそうだ。
喜乃字屋ではライトボディで飲み口の優しいイタリア産のワインを中心に揃えているそうだ。夜食べるなら、白ワインが合いそうだ。
ラー油が効いてる「ハラペーニョ冷やかけ」
他のかわり蕎麦では「ハラペーニョ冷やかけ」(780円)が人気とのこと。たっぷりのネギにごまだれと特製のハラペーニョの効いたラー油がかけられた一品だ。程よい辛さがなかなかよい。このそばにもワインが合いそうだ。
そこで、夕刻、角打ちワインと蕎麦バルを楽しみに再訪してみた。
ガラス張りの店内からは、上野駅前を行く人々の流れだけが目に入る。外の音は遮断され、落ち着いた雰囲気。
するとほどなく、女性3人組が店に入ってきた。
リピーターなのか、注文の動線をよく理解している。枡ワイン390円を各々注文すると、自分でボトルから、日本酒のように枡に入ったグラスにワインをなみなみとこぼしながら注いでいる。390円で大丈夫なんですか、と熊谷さんに聞くと「大丈夫じゃないです」と笑う。うれしい値段です。
秋は、きのこ天せいろも魅力的だ。独酌もよし、仲間と楽しむもよし。上野の森では、枡ワインがすすむのである。
喜乃字屋
台東区上野公園1-54 上野の森さくらテラス 1F
営業時間
10:00~23:30
定休日
なし
写真=佐藤亘/文藝春秋