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2020/11/01

後藤健二氏の音声、父子で分析が違った理由

ーー2015年には、イスラム過激派組織ISIL(イスラミック・ステート)が公開した映像の音声を父子別々で分析されました。ISILに拘束されたフリージャーナリスト後藤健二氏らしき人物の静止画像に流れる音声が後藤氏本人のものであるのか。それに対し、お父様はテレビ朝日の『報道ステーションSUNDAY』で「99%以上本人」、創さんは同じ日に放送された日本テレビの『真相報道 バンキシャ!』で「別人」であるとの結果を発表したので驚きました。

「イスラム国」に捕らえられた後藤健二氏 ©AFLO

鈴木 あれは分析の対象となるISILの映像は同じだったのですが、父と私に比較用データとして持ち込まれた“後藤さんの声”がそれぞれ別の物だった。それで、ああした結果が出たんですね。2012年に私が所長になり、それを機に父はほぼ引退という形で関西のほうに住んでいたんです。離れて暮らしていたので向こうも依頼されているのを私も知らなくてびっくりしました。

 番組放送後、電話をしたら「ちゃんとやれよ」と言われましたけど。その際に持ち込まれた資料やデータがどういうものなのか、どこからきたのか、確かなものなのか、それもしっかり調べないとと強く思いましたね。

 私としては番組が提供したものとしっかりと比較したわけですが、放送を見た人にはどうしても間違いを犯したように映ってしまうんですね。そういう意味での「ちゃんとやれよ」という言葉だったんでしょうね。今後も提供された資料はきっちり精査していきたいなと思います。

グリコ・森永事件では、結局は負けたということになってしまう

ーーいまだに創さんの耳にこびりついて離れない“事件の音”というものはありますか?

鈴木 やはり、グリコ・森永事件の脅迫テープの声ですよね。当時、あそこまで迫っていながら解決できなかったのは、どうしてだったのだろうなとはいまだに思います。

 

 たとえばアキノ氏暗殺事件は、日本とフィリピンの距離や政治状況といったかなりの障害があったにも関わらず解決できたわけです。でも、グリコ・森永事件は未解決に終わった。勝ち負けで言ったら、ある程度はうちの研究所が勝ち進めたけど結局は負けたということになってしまうので気になりますよね。

 解決すれば答え合わせができるのに、それができない。こちらとしては、確実に満点を取れる答案用紙を提出したのに戻ってこないなぁっていう気持ち。あの当時に解決して、テープの声の主もはっきりすれば、音声分析の確かさもより証明できたわけですしね。

【続きを読む】「会議でこんなこと言ってないのに」別人が演技して捏造…分析官が聞いた“驚くべき音声たち”

【参考文献】
▽鈴木松美「音の犯罪捜査官 声紋鑑定の事件簿」徳間書店 1994年

写真=平松市聖/文藝春秋

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