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精子を渡し終えるとオスの役目は終わる

 さらにアナハゼの仲間は、体内配偶子会合型という不思議な繁殖行動をとる。

 アナハゼは交尾をする時期と産卵をする時期がずれていて、交尾は産卵の2~3ヶ月前から行われる。多くの生物は、メスの体内で精子と卵が出会うとすぐに受精し胚発生(はいはっせい)がすすむが、アナハゼの場合は精子と卵が出会っても受精はせず、精子の動きも止まっている。受精が行われるのは産卵時で、精子と卵が体外に放出され、海水に触れると胚発生が始まる。このため、アナハゼのオスは交尾期が終わりメスに精子を渡し終わると、オスとしての役目を終える。さらにアナハゼの寿命は約1年だ。メスが体を大きく成長させ卵をたくさん作る時期にオスは恰好の餌となりうるわけである。オスもメスに食べられて本望かもしれない。

アヤアナハゼを捕食したアナハゼのメスに求愛するオス ©瓜生和史

オスらしい繁殖戦略

 秋になるとアナハゼの仲間の繁殖シーズンが始まる。

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 アヤアナハゼのオスは、メスを見つけると、辺りを警戒しながら、海藻の間を縫うように海底をゆっくり移動する。この移動はメスから少し離れた場所で行われ、メスを中心に円を描くように巡回する。この円は次第に小さくなり、やがてメスの元へ辿り着く。すると、今までとは打って変わってオスの警戒は解け、ゆっくりとした動きは激しい求愛へと変化する。オスはメスの傍らで体を激しく震わせる。頭から尾の先までを波打たせるようなこの激しい求愛は、度々やりすぎてメスを置き去りにし、一人で盛り上がっていることがある。慌てて後ずさりしてきたオスは、またメスの傍らで体を激しく震わせる。

アヤアナハゼ、オスの求愛を受け入れおとなしくしているメス(手前がオス) ©瓜生和史

 こんなことをしばらく続けていると突然オスの動きが止まる。メスは当初から動きが鈍いが、メスの動きもピタリと止まる。このときオスは、メスと平行に並び体を傾け、オスはメスの腹部に自分の腹部を押しつける。この状態のまま20秒ほど経過したところで突然メスがぴょんと泳ぎ去った。この20秒間に何が起こっていたのだろうか? 二つのパターンが考えられる。一つは、長いペニスをメスの体内の奥まで挿入し20秒かけて精子を渡していた可能性。もう一つは20秒かけて長いペニスでメスの総排泄口を探り、もしくは刺激し、メスの受け入れ態勢が完全に整ったところで、オスのペニスの先端にあるフックを巧みに使い、一気に放精した可能性だ。もう少し観察例が増えると、もっと面白い行動が観察できる可能性もある。