Jリーグ開幕からプレーしている“唯一の選手”
1993年のJリーグ開幕からいまなおプレーしているのは、カズさんひとりしかいません。参考にできるモデルがないので、練習前後の身体のケアやオフの日の過ごしかた、ケガをした際のリハビリなど、すべてを自分で考えなければならない。
判断に迷う場面では、周囲の意見を積極的に集めます。チームのスタッフや専属のトレーナーはもちろん、現役を退いて久しい私にも聞く。別角度からの意見を参考にしているのでしょうが、あきれるぐらいに研究熱心なのです。
Jリーグの最年長出場記録を更新した数日後にも、カズさんから連絡がありました。通っている美容院が同じで、時間が合いそうなので「会おうか」ということになったのですが、カズさんは私に「この前の試合のプレーはどうだった?」と聞きたかったのでしょう。残念ながらタイミングがズレて会えなかったのですが、「うまくなりたい」という意欲は若いころから1ミリも変わっていないなあ、と感じました。
プレーについても同様です。横浜FCには10代後半から20代前半の選手、つまりカズさんの子供と同世代の選手もいますが、彼らにも「あのプレーはどうだった?」、「あれはどういう判断だったの?」と質問をしている。「自分はこれだけの実績を残してきたんだ」というような上から目線にならないのです。
ワールドカップへの思いは?
カズさんが53歳となった現在まで現役を続けているのは、ワールドカップに出場していないことが関係しているのでは、と考える人がいるかもしれません。ご存じの方も多いでしょうが、カズさんと私は1998年のフランス・ワールドカップの大会直前に、日本代表メンバーから落選しました。
サッカー王国ブラジルでバリバリのプロとして活躍していたにも関わらず、カズさんはJリーグ開幕を控えた日本に帰国しました。理由はただひとつ、「日本をワールドカップに出場させるため」でした。
20年に35年目を迎えたプロ生活で、カズさんはあらゆるタイトルを獲得してきました。国際的なタイトルも数多く受賞しています。そんなカズさんに唯一欠けているものが、ワールドカップ出場なのかもしれません。
ワールドカップに出場できていないから現役を続けているのか、カズさんに聞いたことはありません。聞きたくないのではなく、聞く必要がないな、というのが私の率直な思いです。
カズさんは本当にサッカーが好きなのです。サッカーがうまくなるなら何だって犠牲にできるし、どんなに苛酷な練習にも耐えられるのです。
笑い話のようなエピソードを、ひとつ紹介しましょう。