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「死刑についてどう思ってる?」
そんな被告人が、あるとき突然黙り込んでしまう瞬間があった。
不規則発言を無視して、弁護人が井上嘉浩に対する反対尋問を続けている最中だった。もはや、弁護人も井上も、それに裁判長も傍聴人も、被告人の声には慣れっこになっていて、無視していた。
そんな時だった。
弁護人のひとりが、
「う~ん……、これはちょっと、あなたには訊きづらい質問なんだけどぉ……」
と、前置きをして戸惑いながら井上にこう尋ねた。
「あなた、死刑についてどう思ってる? 自分自身が死刑になることについて」
死刑、という言葉が出た瞬間だった。それまでぶつくさ言っていた被告人の口元が、しゅんとしたように静かになった。
答えに思いを巡らして間をおく証人。
途端に法廷中に静寂が訪れる。
ああ、これが本来の法廷のあるべき姿なのだ、と思ったことを覚えている。慣れというのは恐ろしいと思う一方で、「死刑」という言葉に敏感に反応する被告人の態度を痛切に思い知った。
「3人殺せば、死刑だな」
坂本弁護士一家殺害事件のあとに、実行犯を集めてそう零したことも頷けた。
死刑に異様な執着をみせる。
それでいて、心ここにあらずという素振りをしながら、弁護人の質問の内容や、法廷の成行きはちゃんと耳に届いていたことを知らされた。