無意味なことをさせられると、支配されている実感が湧く
小林 続いて、俺にとって生きていく上で大切な1冊、『高橋ヨシキのシネマストリップ 戦慄のディストピア編』を紹介します。映画ライターで、映画監督もなさってる高橋ヨシキさんの映画評論が1冊にまとまってる本で、「クソッタレな世の中を生き抜くための映画解説本」なんです。
ユートピアの対義語で、ディストピア映画というジャンルがあるのはご存じですよね。
淳 みんなが求めてない、理想の反対の世界ですね。
小林 例えば「ロボコップ」とか、「トータル・リコール」、「スターシップ・トゥルーパーズ」とかです。
淳 俺も知ってるタイトルですね。
小林 ディストピアは、弱者の人たちにとっては本当に生きるのが大変な世界です。でも、ある一定の人たちにとってのユートピアではあるんです。
淳 悪い人たちにとって、ですね。
小林 ヨシキさんは、ディストピアを描いた面白い映画を通して、今社会で起きていることってこれに似てないか? って指摘しているんですよ。今一度、俺たち1人1人の個人の尊厳に対して向き合ってみようよっていう、優しい挑戦の1冊なんです。
淳 うおー。
小林 例えば、「1984」っていう映画では、主人公が暮らすオセアニアは、権力によって徹底的に支配され、自由が許されない世界です。その中で主人公は、自由な恋愛をしようとして党に捕まって拷問を受ける。そのときの台詞がとっても恐ろしいんです。
「他人を支配する権力は、どのように支配されるかね(中略)苦しめることによってはじめて行使される。服従だけでは十分ではない。相手が苦しんでいなければ、はたして本当に自分の意思ではなくこちらの意思に従っているかどうかはっきり分からないだろう」(映画「1984」より)
淳 なるほどね。国民が苦しんでいるのを見て、権力者側は支配してるんだと初めて実感するってことですよね。
小林 支配されてる側も、意味があることをさせらたら納得しちゃう。でも無意味なことをさせられることによって、支配されてる実感が湧くと思うんですよね。
例えば、「歯磨きしろ」って言われても歯が綺麗になるという意味が分かるから、そこに権力は感じない。でも、歯磨き粉をなるべく遠くに「飛ばせ! 飛ばせ! 飛ばせ!」と言われたら、「なんでこんなものに従ったんだろう」って思う。すると、“従ったんだ”ってことだけが強く残って、権力の力を自覚してしまう。
淳 あーーーー! 深ぇな。