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天寿を全うできる、HIV、エイズの治療

 医療機関や保健所などの検査でHIV感染「陽性」が確定した場合、治療は各都道府県が設置する「拠点クリニック」や「中核拠点クリニック」で行われます。

 繰り返しになりますが、HIV陽性でも早期に治療を開始すれば95 %以上はエイズの発症を抑えられ、他人への感染も予防できます。たとえエイズを発症したとしても、治療を続けることで9割の患者は社会復帰が可能で、今では根治はできなくても、糖尿病や高血圧のように治療で管理できる慢性疾患ととらえられています。

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 治療の目標は根治ではありません。あくまで抗HIV薬によって血中のウイルスの増殖を検出限界以下にまで抑制することです。1996年以降は、3剤以上の薬剤を組み合わせる「抗レトロウイルス療法(ART)」が確立され、今では、ほぼ100%近くウイルスの増殖を抑えられるようになっています。HIV感染症とエイズ発症後の治療は、基本的には同じです。

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 少し難しくなりますが、抗HIV薬についてお話しします。抗HIV薬は、大きく分けて5種類あります。「核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)」「非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)」「プロテアーゼ阻害薬(PI)」「インテグラーゼ阻害薬(INSTI)」「CCR5阻害薬」です。前の4つは、HIV特有の酵素の働きを阻害する薬で、CCR5阻害薬は、HIVがCD4陽性リンパ球細胞に侵入するのをブロックする薬です。

 国内で使用可能な抗HIV薬は24種類で、その他にも複数の薬を配合した合剤もたくさんあります。抗HIV薬の中で、HIV抑制効果がより強力な薬剤を「キードラッグ」、それを補足してウイルス抑制効果を高める役割をもつ薬剤を「バックボーン」と呼びます。現在は、バックボーンとして「NRTI」2剤に、「キードラッグ」1剤を組み合わせるのが一般的です。

進歩し続けているHIV治療の現場

 ARTの効果は100%近いと言われており、治療効果が不十分な場合の原因のほとんどは、患者がキチンと薬を飲まないからです。飲み忘れがあると単にその時点でウイルスに対する抵抗力が弱まるだけでなく、耐性ウイルスができてしまいます。抗レトロウイルス療法が確立されたばかりの頃は飲むべき錠剤が多かったり、副作用が高い頻度で出ていたりしましたが、近年はそれらが大きく改善され、1日1回1錠の服薬で済む配合剤が登場し、治療の煩わしさはなくなりつつあります。

 ただし、年を重ねると新たな問題が発生することがあります。糖尿病や高血圧といった生活習慣病などを発症すると持病薬との飲み合わせによっては、抗HIV薬の種類を変更しなくてはいけない場合があるからです。