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「Bリーグ」の契約交渉で起きた“ある事件” こんなことは野球界ではあり得ない

池田純「スポーツビジネス・ストロングスタイル」#6

2020/11/05
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躊躇なくエージェントの申し出を断った理由

 昨今「アスリート・ファースト」という考え方が広まっています。選手のことを第一に考え、権利の保護や競技環境の向上を図る。当然Bリーグも、重要なテーマの一つとして認識しています。

 しかし、私自身が体験したように、有象無象のエージェントが無秩序に活動している現状は、つまるところ、選手の不利益につながります。代理人は、文字どおり選手を代理する存在なので、私が今回遭遇したような不誠実で刹那主義のエージェントと手を組んでしまえば、選手自身の印象も悪くなってしまいますし、せっかくの金額以上に選手にとってメリットのある契約の機会を逃すことにもなりかねない。

 ただ、現状では選手として、委託するべきエージェントを選ぶ基準がありません。

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 今回の外国人選手のケースについて、エージェントが「他チームから打診された」と伝えてきた金額は、もともと私たちと合意済みの提示額と大した差はありませんでした。包み隠さず記せば、月額数万円程度の上積みです。ブロンコスとしても、十分に支払える程度の額でした。おそらく先方も「きっとブロンコスは上積みしてくるだろう」と思ったのかもしれません。

さいたまブロンコス(公式サイトより)

 それでも躊躇なくこのエージェントの申し出を断り、関係を切ったのは、私がこれを飲んでしまっては、日本のバスケ界の健全な発展につながらない、と考えたからです。

 繰り返しになりますが、人材紹介や転職斡旋の場面で、A社への転職が内定していた段階で、B社がよりよい条件を出してきた、ということがあったとしても、仮になかったとしても、斡旋会社がA社に「B社の条件とコンペになったので改めて条件を出してください。選ばせます」といったことはまず起きないでしょう。