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2020/11/07

──でも、『鬼滅』は主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)の家族が一番上の妹を除いて鬼に皆殺しにされる凄惨な場面から物語が始まります。首が切り落とされる残酷な描写もたくさんあり、女子小学生がハマるにはハードすぎるんじゃないですか。

新村 たしかに設定だけを見れば、まるで『子連れ狼』に代表される昭和の劇画の世界です。柳生一族に家族を殺された拝一刀が、息子・大五郎とともに復讐するみたいな……。ただ、こうした主人公の逆境は昔からヒット作の王道なんですよ。かつて国民的人気になったNHKの連続ドラマ小説『おしん』なんて、すさまじい逆境から始まりますよね。

 最悪の状況から物語がスタートし、逆境のなかで主人公が成長していくので、観ている側はもう応援するしかない。だから老若男女が物語に入り込むことができる。いまどきのアニメがそこそこのヒットで終わるのは、主人公が最初から強いからです。さらに、『鬼滅』はハードな内容のわりに絵がかわいく、子どもの心を打つ仕掛けも隠されています。

原作の売り上げ部数は1億部を突破

小学生の女子たちは禰豆子に感情移入している

──子どもの心を打つ仕掛け! それはいったいなんですか。

新村 僕が思うに、そのひとつは炭治郎の「やさしさ」です。家族を殺されて鬼殺隊に入ったのに、炭治郎は負の感情にとらわれていない。普通なら鬼を憎み、ただ復讐にまい進する。実際、従来の作品であればそういった物語展開だったでしょう。でも、炭治郎は鬼にされた妹・禰豆子(ねずこ)を人間に戻すために戦っている。鬼が憎いわけではないんです。

 たとえば、炭治郎は鬼の死に際に手を握ってあげたりもする。こういうやさしさって女の子ウケがいいし、負の感情に疲れた現代人に刺さりやすいと思うんですよ。炭治郎が『進撃の巨人』のエレン・イェーガーのように、単に「鬼を駆逐してやる」というタイプの主人公だったら、ここまでの国民的人気にはならなかったんじゃないでしょうか。

©時事通信社

──なるほど。たしかにやさしい男の子は学校でもモテます。

新村 そのやさしさをより引き出しているのが鬼にされた禰豆子です。炭治郎は常に妹の禰豆子のことを気遣い、守ってあげている。一般的に子どもは物語を俯瞰して見るのが苦手なので、感情移入できる対象を登場させないと大ヒット作にはなりません。禰豆子というのは、小学生の女子が感情移入することのできるキャラクターなんです。

 しかも、炭治郎と行動をともにする善逸(ぜんいつ)というキャラが「禰豆子ちゃん好き好き」ってチヤホヤしてくれる。感情移入している女子にとって、善逸は自分を好きと言ってくれる男の子です。それでいて性的なものは全然感じさせないので安心して観ることができる。事実、善逸は女子小学生のあいだで一番人気のキャラになっています。