文春オンライン

「グリーンプラザは“聖地”」「泥酔して起きたら高尾山」懐かしの終電エピソードを振り返る

2020/11/13

genre : ライフ, 社会

note

終点の高尾山口駅で起こされて「ここはどこ?」

 しかし、なんといっても終電で恐ろしいのは、酔って車内で爆睡してしまい、駅員に起こされて周囲を見渡したら「ここはどこ?」の状態になることだ。中央線の高尾駅、京王線の高尾山口駅、東武日光線の南栗橋駅などが“危険な駅”として知られている。

 広告会社の営業のFさん(45歳、男性)は20代のころ、泥酔状態で京王線の終電に乗ってしまい、高尾山口駅で駅員に起こされて途方に暮れたことがあるという。

「当時はまだ就職する前で、千歳烏山の友人の部屋に居候し、歌舞伎町のキャバクラでボーイのバイトをしていました。店にはラムちゃんという子がいて、従業員とキャストとして仲良くしていたんです。ある日、ラムちゃんとご飯を食べる機会があったんですが、彼女はお酒を飲めないのに僕はベロベロに酔っ払ってしまって。それでもなんとか京王線の終電に乗ることはできました。

ADVERTISEMENT

 でも、起きたら『終点』『高尾山口』という車内アナウンスが聞こえる。僕は東京に出てきて間もなかったので、高尾山口と聞いてもどこかわからない。『ここどこ?』と思いながら改札を出ると、当時はまだ白タクがたくさんいて、運転手たちがガンガン営業してくるんです。『なにこれ? めっちゃ怖い』と、もうパニックですよ」(Fさん)

©iStock.com

 そこでFさんが思い出したのが、先ほどまで一緒にいたラムちゃんだったという。ラムちゃんは多摩西部の福生市に住んでいて、都合がいいことに車も所有していた。

「東京の地理がわからないといっても、千歳烏山より福生のほうが高尾山口に近いということぐらいわかる。いま考えると福生もけっこう距離があるんですけど。とにかく藁にもすがる思いでラムちゃんに電話し、『寝てたら高尾山口っていう駅で降りちゃって。帰れなくてマジで困っているんだけど、迎えに来てくれないかな』とお願いしたんです。

 すると、なんと『いいよ』と言ってくれて、ラムちゃんの部屋に泊めてもらえることになったんですよ。そのうえ、お互い恋愛感情は全然なかったんですが、なんとなく“そういう空気”になり……。災い転じて福となすとはこのことだと思いました」(Fさん)

◆◆◆

 いま、忘年会シーズンには中央線の高尾駅からは八王子駅まで送り戻す「寝過ごし救済バス」が走り、沿線の終点となる各駅には漫画喫茶などができたところも多い。

 もはや終電に乗り遅れても終点まで行ってしまっても昔ほど困らないのだが、新しい生活様式によって終電そのものが存在感を失いつつあるのは皮肉としか言いようがない。また以前のように終電の時間を気にしながら飲める日はやって来るのだろうか。

「グリーンプラザは“聖地”」「泥酔して起きたら高尾山」懐かしの終電エピソードを振り返る

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー