来年春のダイヤ改正で首都圏から郊外に向かう各路線の終電が繰り上げられる。JR東日本では山手線や中央線、京浜東北線などで終電が30分ほど、小田急電鉄でも20分ほど早くなり、西武鉄道も来春から池袋線や新宿線で最大30分ほど繰り上げるという。
鉄道会社が終電の大幅な繰り上げという大転換に踏み切ったのにはワケがある。
それは生活様式の変化だ。コロナによって在宅ワークが普及し始めたことで、終電ギリギリまで働いたり飲んだりする人が一気に減少。JR東日本ではコロナ以前に比べて深夜帯の利用客が6割も減少し、この傾向は今後も続くという。終電が早まれば困る人も出てくるが、もはや午前1時まで電車を走らせる時代ではないと判断されたようなのだ。
しかし、そう聞くと終電の時間を気にして飲んでいた日々が懐かしくもなってくる。誰にでも「あのときは終電に乗り遅れて大変だった」という経験があるもの。そんなとき始発の時間までどう過ごしていたのか。終電には乗れたものの、寝過ごしてまったく知らない駅まで行ってしまったことは? そうした終電後の悲喜こもごもを集めてみた。
(取材・文=押尾ダン/清談社)
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終電を逃したサラリーマンの聖地・グリーンプラザ
まず終電に乗り遅れた後に多くの人がどこで何をしていたかを紹介しよう。
「昔は職場の仲間と飲んだり接待したりで、毎日終電で帰っていました」と懐かしそうに話すのは、西新宿に本社のある大手企業に勤務するAさん(51歳、男性)だ。
「私が住んでいるのは中央線・総武線沿線の郊外なんですが、新宿駅の終電は中央線三鷹行が午前1時01分とかなり遅い。それで油断してしまうこともあり、よく終電に乗り遅れました。そんなときに利用していたのがグリーンプラザです」(Aさん)
グリーンプラザとは、かつて西武新宿駅近くにあったカプセルホテル&サウナ「グリーンプラザ新宿」のこと。惜しまれながら4年前に閉館してしまった名物サウナだ。Aさんいわく「新宿で終電を逃したサラリーマンなら誰でも一度は利用したことがある」というほどの有名スポットで、バブル期にはカプセルホテルがよく満室になっていたという。
「なぜ終電に乗り遅れた人に人気だったのかというと、まずカプセルホテルの宿泊料金が安かったからです。私が20〜30代のころは1泊3000〜4000円でした。その値段で個室に泊まれて、サウナや露天風呂、ジャグジーも利用することができた。当時は、個室に設置された小型モニターでアダルトビデオが見放題という謎のサービスもありました。
さらに助かったのは、午前4時までに受付すれば翌朝8時に仕上げてくれるクリーニングサービスがあったこと。いったん家に帰ってヨレヨレのワイシャツを着替えなくてもそのまま会社に行くことができたんです。漫画喫茶がなかったあの時代、グリーンプラザは終電に乗り遅れたサラリーマンの聖地のような場所でした」(Aさん)