でも特に思い入れもなく、パートの作業としてつくっていただく場合、ただ、「つくってください」と言っても難しい……。そのことを痛感した。
まずは300本のストローを、野村さんと一緒に、全部チェックすることにした。ところが、10時を過ぎた時点で、3分の1も終わらない。滝川役員はずっと心配そうに付き添ってくださっていた。
「朝までかかりそうなので、先にお帰りください。私は、野村さんに送ってもらいますから」
そう言ったのだが、「僕も待つよ」とおっしゃって、結局、日にちが変わってもずっと待っていてくださった。
実は野村さんとは同期入社とはいえ、それまで、あまり話をしたことがなかった。彼はもともと設計職で入社したのだが、少し前に物流センターに異動になり、その後、ストローの製造を担当することになった。
家づくりをしたかったはずがストローづくりに携わる
家づくりに関わりたくて入社し、プライドを持って設計の仕事をしていたのに、すべての業務から離れてストローをやることになって、野村さんはとても戸惑っていた。ストローを検品する間に、そんな話も聞いた。全部、確認し終わったときには、明け方近くになっていた。
改めて、「基準」を決めることにした。スライス材を巻く角度は一度もずれないように、ストローの長さも21センチに揃える、切断面は丸く、ノリは側面につかないようにするなど、シルバー人材の方たちに細かく伝えた。
ところが、「ちゃんと巻けているか、中を見て確認してください」と、お願いすると、
「老眼で、手元がよく見えなくて……」
さらに、「スライス材を巻くときは、手にもっと力を均等に入れて、しっかり巻いてください」と言えば、
「手に力が入らなくて……」
設計ありきの落とし穴
年配の方がつくりやすいよう配慮しなければいけない、ということも痛感した。また、向かい合わせで作業をすると、楽しくておしゃべりに夢中になってしまうということもわかった。
そこで、集中して作業してもらうため、机はスクール形式に配置を変えた。手元を拡大するスタンド式の卓上ルーペも購入し、乾燥の目安を数値化するため、ストローの含水率を簡単に測れる測定器も用意した。