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まるで『下町ロケット』の世界…住宅メーカーの広報だった私が体験した木製ストロー開発実話

『木のストロー』より #1

2020/11/17

失敗を恐れるな

 その後も、自社製造では、大なり小なりの問題が起きた。

 あるとき、「ストローを乾燥させていたら、黒い斑点が出てきます」と、工場から報告を受けた。

「え、黒い斑点!?」

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 クレコ・ラボさんでつくっていただいていたときは、一度も黒い斑点など出たことがなかった。不可解な現象に首をひねった。

 なんでだろうとよくよく調べてみたところ、問題は外注しているスライス材にあった。スライスする機械には鉄を使う。その鉄が木に移ると、「鉄汚染」といって黒い染みのようなものが浮いてきてしまうことがあるそうだ。だからスライスをするときにも、気をつけなければいけないということだった。

 また、まれに間伐材が細すぎて、ノリで接着してからスライスしている業者もあった。そのノリの接着成分に、ストローとしては使ってはいけない薬品が含まれていると、食品分析センターの安全検査でひっかかってしまう。そういうもろもろもの問題を一つずつ解決していく必要があった。さらに、ストローを接着するノリも、もっとよいノリがないかと改良を続けていた。

ストローの世界基準を検討する

 ときに社長から、「果たしてそれが、正解なのか」と、問われることもあった。

 ストローの口径はその一つ。もともとザ・キャピトルホテル東急さんのストローが4ミリだったので4ミリでつくっていた。でも、あるとき社長に、「まだ4ミリでつくっているの?」と言われた。

 職人気質の社長は、常に進化を求める。「維持は後退」ということもよくおっしゃる。

 ただ、一方で成否は問わない。だから私も自信を持ってストローに取り組めたのかもしれない。

「イチローのような大リーガーでも3割打者。7割は失敗するんだよ。だから失敗もオールOK。私も若い頃は失敗ばかりで、三度も倒産しかけた。みんな失敗を恐れず挑戦しなさい。成功したときはなぜ成功したかを徹底的に分析し、偶然の成功を必然に変えてほしい」

 そんな話を、社長はよくされる。このときは「ストローの世界基準は何ミリか?」と問われ、社内でストローの「世界基準」が討論されることになった。

©iStock.com

 調べてみると、5ミリがメジャーな太さだということがわかった。確かに4ミリより、5ミリのほうが飲みやすい気もする。

 私はどっちでもいいんだけどなあ……。

 とは言えなかったが、検討の結果、基本は5ミリでつくり、ホテルなどすでに提供しているところは、4ミリでつくることになった。

木のストロー

アキュラホーム 西口 彩乃

扶桑社

2020年10月16日 発売

まるで『下町ロケット』の世界…住宅メーカーの広報だった私が体験した木製ストロー開発実話

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