SDGs、「緑の経済成長」……流行りのこれら環境指針がいわば富める先進諸国や企業の「免罪符」として機能し、気候変動という危機の本質から目をそらすものになってきた事実を暴いた経済思想書『人新世の「資本論」』が大きな話題を呼んでいる。気鋭の学者・斎藤幸平氏が語る資本主義の限界を突破する、新しい社会モデルとは?
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――本年6月、シベリアで「8万年に1度」の異常高温、北極圏で史上最高の38度を記録したことがニュースになりました。気候変動の深刻な危機はすでに始まっており、現状のグローバル化された経済活動を放置すれば2100年には地球の温度は4.1~4.8度上昇し、農業、漁業への打撃、海面上昇、豪雨などの異常気象をもたらすという本書の指摘は衝撃的でした。
斎藤 気候変動がもたらす海面上昇の問題は深刻で、もしも現況の上昇率のまま4度上がれば、日本でも沿岸部を中心に1000万人に、世界規模で見れば億単位の人々の居住に影響が出ることが予測されています。食料危機や水不足、異常気象によって経済も大打撃を受け、年間27兆円が失われるという試算もあります。
これが、「人新世」と呼ばれる時代の近未来の姿です。人新世とは、人間の経済活動、すなわち資本主義の痕跡が地球を覆いつくした時代を示す用語として、地質学で提唱されている用語ですが、地球は人の手で大きく変えられ、地表はビルや工場、道路、農地、ダムなどで埋め尽くされています。そして、大気中には二酸化炭素が急増している。そうした環境破壊の報いを私たちが受けるようになってきているのです。
それでも環境危機の現実を突きつけられたとき、普通の人のリアクションは「でもテクノロジーの力で解決できるでしょう」「賢い政治家がなにか対策を考えるだろう」と、どこか他人事です。
こと日本では、環境問題への積極的な取り組みは「我慢する」というイメージが強く、敬遠されがちです。自分たちのライフスタイルや働き方を変える――例えば牛肉の消費を減らすとか飛行機を使わないようにするといった環境問題の対策の話になると、日本では自分たちが貧しくなると思っている人がすごく多い。
ところが、世界では6割強の人が環境問題に取り組むと生活の質は改善すると考えている。なぜなら、コンビニ、ファストフード、ファストファッションのように、一見豊かでなんでも手に入るように見える現代社会のすぐ消費して、すぐ捨てるようなライフスタイルが本質的に豊かでないことに気づいているからです。
――日本では温暖化問題に関して非常に懐疑的な議論がなされてきたことついて、どうお考えですか。