環境問題の突破口はマルクスにあった
斎藤 はい、「有限な地球で無限の経済成長する」こと自体に無理があるんです。だとすると、資本主義そのものに大胆なメスを入れる必要がある。
資本主義が経済成長という形でしか解決策を出せない中で、気候変動の問題がここ30年以上放置されてきた状況を考えるとき、私にとってその問題解決の突破口となったのがマルクスの思想でした。
マルクスはこれまでずっと環境思想や環境問題の扱いがヘタクソな思想家だと誤解されてきましたし、それを受けて労働運動も環境問題を軽視してきました。
しかし、最新の文献研究を踏まえてマルクスを見直すと、晩年にエコロジー研究と共同体研究に没頭し、「脱成長コミュニズム」という地点に到達していたことがわかります。そのビジョンは、環境危機が深刻化する「人新世」の時代に必要な、新しい経済モデルの大きなヒントを示しています。こうしたマルクスのビジョンは、150年ものあいだ、ずっと眠っていたものです。
ですから、ここで言うコミュニズムは、ソ連のいわゆる共産主義とはまったく違ったものです。むしろソ連は国家主導型の資本主義だったと言っていい。資本主義の場合は企業を資本家が経営するわけですが、ソ連は資本家に代わって国家官僚が管理したというだけ。実質的には、資本主義的な生産性向上や無限の経済成長を目指したものだったのです。けれども、官僚主義の弊害で、技術革新や市場のメカニズムを通じたスクラップ&ビルドが起きず、結局はアメリカ型資本主義に負けてしまった。
でも、この失敗は、マルクスの脱成長コミュニズムには関係ありません。マルクスは、官僚による管理ではなく、多くの市民が参加して、〈コモン〉を管理するというビジョンを抱いていました。〈コモン〉とは、誰もが必要とするもの、社会的に人々に共有され、管理されるべき富を指します。水や電力、住居、医療、教育といったものですね。これを公共財として、市民が共同管理する。〈コモン〉という公共財の領域をじわじわと広げた先に豊かなコミュニズム型社会が出現する。つまり、〈コモン〉主義なのです。
――ライフラインをはじめ社会に必要な部分を市民が共同管理するというのはユニークなビジョンですね。
斎藤 いまの社会では、貨幣で買わないといけないものが多すぎます。ありとあらゆるものが商品になってしまって、私たちは自分の力では何ひとつ作ることができない無力な消費者になってしまった。
たとえば水の商品化。本来、〈コモン〉であるはずの水が商品になることで、資本的価値は増大するのかもしれませんが、それによって逆に人々は貧しくなる。それは資本主義にとっては都合のいいことですが、生きるのに必要不可欠なものを何でもお金で買わないと入手できない社会は、人々にとっては非常に過酷なシステムです。
貨幣に依存しなくても生きていける〈コモン〉の領域を増やしていくことは、危機の時代に社会を安定させる要です。逆の方向に進むと、万人の万人に対する闘争状態、秩序なき野蛮状態に向うでしょう。
――著書の中で「ラディカルな潤沢さ」というビジョンを掲げていますが、〈コモン〉という方法によって市民が豊かさを取り戻したモデルケースはありますか。