「あいつは弱いものいじめばかりやっていた」
同じく、松永と小中学校の同級生だったBさんは次のように思い出す。
「中学校時代、松永は背も高く運動神経も良かったのですが、女の子にはまるでモテませんでした。というのも、あいつは弱いものいじめばかりやっていたんです。自分より弱いやつを子分にして、無理やり牛乳を飲ませたり、パシリにしたりしていました。そういう卑劣な性格が女子にもバレていたようで、決して顔は悪くないのに嫌われてました」
どうやら松永は、強い相手には弱く、弱い相手には強いという顔を見せていたようだ。当時、松永よりも強い立場だったと周囲に聞いた、小中学校同級生のCさんは語る。
「(松永は)小学校とか中学校は普通の子やけん。中学時代はね、人よりか人に接する能力が長けとったくらいよ。やけん口が上手かったとかの話が出るんやと思う。そんなに暴力的な感じやなかったね。小中学校では不良ではないね。松永くんはまったくそういうレベルじゃないとよ。
高校で覚醒しとるんよ。それも、喧嘩とかで人の上に立つとかの高校には行っとらんけんね。存在感っつうのはなかったよ。中学校で目立った存在やなかったもん。全然。成績は良かったけど、ずば抜けてはおらんかったね。(松永が進学した××高校は)成績が中くらいのが行くと。ただ、口が達者というのは中学時代からあった。それは個性やった。先生やらに討論をしかけるとかね。いろいろ理屈をふっかけて、あーだこーだ言いよったよ」
「父親はおとなしいもん。母ちゃんはガーガーガーってタイプ」
Cさんは松永の家にも行ったことがあると明かす。
「そんなに頻繁やないけど、中学時代から行きよったね。あいつの部屋は1階の玄関から入ってすぐ左にあると。窓が道に面しとったけん、そっから入ったりとか。あそこの母親はね、なんかがあったら表に出てきて、ガンガン言う母親よ。そういう意味で、松永は母親似よ。父親はおとなしいもん。母ちゃんはガーガーガーってタイプやった。
商売は布団屋やったけど、正確に言うと、おじいさんがやりよったのは行商やったと。あの地域は5~6人はそういう行商がおって、『行商さん』と言われとったとよ。白か(白い)バンに布団とかゴザとかを乗せて、家をまわって、いかがですかって。壱岐(長崎県)とかまで行きよった。やけん、とくに店舗とかはないと」
こうした周辺の声を集めると、弁護側の冒頭陳述で出てきた内容と事実に、乖離があることを感じずにはいられない。
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この凶悪事件をめぐる連載(一部公開終了した記事を含む)は、発覚の2日後から20年にわたって取材を続けてきたノンフィクションライターの小野一光氏による『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』(文藝春秋)に収められています。