「ある日警察官が数人いきなりホテルに入ってきてね、『この男はいないか』って写真を見せるわけ。ドラマみたいでしょ。そしたらその写真の男が普通に知っている顔なわけ。結構いい人で何回かお話もしてたんですよ。でもその男、九州の連続空き巣事件で指名手配がかかっているらしく、『いますいます! あの部屋に泊まってます!』て興奮気味に言ったんですよ。そのまま連行されたんですが、去り際にフロントに『お世話になりました』だって」
その男は刑務所から南海ホテルに手紙を送り続け、出所後は律義に手土産を持ってフロントまで挨拶をしに来たらしい。
部屋から使用済みの注射器が出てきた215のように、ドヤにおける覚せい剤ネタはラブホテルの部屋にウンコが盛られていたという清掃員の話くらいの鉄板話。隣の部屋から断末魔の叫びのような悲鳴が聞こえたという客が見に行くと、垂れ流し状態のオヤジが気を失っていた。布団の上には注射器が4本。オーバードーズで三途の川の岸に打ち上げられていたという話。
「頼むから救急車だけは呼ばないでくれ……」
また別の日は、陳さんがフロントにいると1階の階段あたりから「グエエエエッ」という声が聞こえ、走って向かうと、踊り場に泡を吹いたオヤジが全身を痙攣させながら倒れていた。「大丈夫ですか!?」と駆け寄った陳さんに対しオヤジは「頼む、頼む……」と続けてこう言った。
「頼むから救急車だけは呼ばないでくれ……」
「それで陳さんどうしたんですか?」
「いや、救急車呼ぶでしょ」
そしてオヤジは覚醒剤取締法違反の罪で、刑務所に連れて行かれたのであった。やはりドポン中の人間を目の当たりにするのは気分のいいことではないというが、そんな陳さんでも「これは笑うしかなかった」という経験がある。
ホテルのエレベーターが故障し、業者に修理してもらった時のこと。業者がエレベーターの下に潜ったところ、そこからおびただしい数の使用済み注射器がごっそり出てきてしまったらしい。シャブ中たちが揃いも揃って、エレベーターの隙間から注射器を落とし続けていたというわけだ。
「あとは病気で人が死んでいるなんてこともたまにありますよ。酔っぱらって帰ってきたオヤジがフロントで転んで頭を打ったんです。『大丈夫や』って部屋に戻ったけど、そのまま死んじゃった。全然部屋から出てこないからマスターキーで中に入ると、身体はベッド、頭は床という体勢で倒れてたの。触ると常温の水くらいの冷たさで救急車呼んだんだけど、袋に詰めて持って行かれちゃった」
※本書は著者の体験を記したルポルタージュ作品ですが、プライバシー保護の観点から人名・施設名などの一部を仮名にしてあります。
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