ヤクザ保護区
本来、定修も食い込めばいいシノギなんだよ。どの工場でもたいてい、1カ月くらいで終わっちまうが、そこが終わると同じ会社の別の場所に移る。サーカス団があちこちで公演していくようなもんで、それを専門にしてるヤクザもいた。なじみになると仕事がずーっと繫がっていくから、うまみはある。
でもいまはなかなかそれが出来ない。定期的な交際は警察の目に付きやすいからだ。いきなり会社を興し、こういった工事に入り込むのはまず不可能だろう。昔からの関係が続いていたとしても、社長の代が替われば切られるかもしれない。定修・定検に関しては、よほどちゃんとやらないと継続しない」
当時稼働していた九州の玄海原発についても質問した。
「東北のような場所……いまどきは珍しいだろうな。エアポケットというか、ヤクザ保護区というか。すぐに取り締まりが厳しくなるなんてことはないだろう。ヤクザは死にました、でも原発業者も死にました、ではまずい。殺したいのはヤクザだけなんだから、ピンポイントで効く抗がん剤を探さなきゃならない。
九州の原発……反対運動なんてないだろ。反対って、いったいどこが反対するのか分からない。電力会社っていうのはどこでも殿様商売っていうか、城下町を作ってる。なんだかんだで九州電力関連の仕事しているもんが多いんだろうから、反対運動はお約束ってことだ。
普通にサラリーマンしてる人たちなら、『放射能は嫌だ』っていうかもしれんが、金くれる人がいい人に決まってる。それに電気なかったら困るだろう。一般的に考えて。
『じゃあいいよ、電気は売ってやらない。電気停めますよ』そう居直られたらぐうの音もでない。俺たちから言わせれば、ヤクザのやり口と一緒だよ。暴力で脅すか、他の手段で威圧するか、それだけの違いだ」
九州の原発に企業進出する気はないか訊いてみた。
「世間が注目している場所に出張り、目立つなんて馬鹿のやることだ」
組長の見解はもっともだった。愚問だったかもしれない。
九州は地元組織が強く、おまけにヤクザの過密地帯だ。福岡県だけで指定暴力団が5団体もあり、他の独立組織や山口組系有力団体も多い。2006年6月に勃発した道仁会vs.九州誠道会の分裂抗争は、一触即発の緊張状態が続き、収束の気配が見えない。ヤクザ激戦区のため警察の取り締まりも厳しい。全国に普及した暴排運動は、九州から始まったのだ。