30年近くヤクザを取材してきたジャーナリストの鈴木智彦氏は、あるとき原発と暴力団には接点があることを知る。そして2011年3月11日、東日本大震災が発生し、鈴木氏は福島第一原発(1F)に潜入取材することを決めた。7月中旬、1F勤務した様子を『ヤクザと原発 福島第一潜入記』(文春文庫)より、一部を転載する。(全2回の1回目/後編に続く)

Jヴィレッジは土産

 親分が続ける。

「あとは自分たちの息のかかった建設会社を工事に参加させる。原発といっても、その大半は普通の土木建築会社の仕事だ。原子炉建屋とか炉心周り……そんな専門的な場所に手を出す必要なんてない。タービン建屋くらいはやるときもある。あれは工場から運ばれてきたタービンを設置するだけだ。一応、特殊な配管技術が必要だけど、そんなものは外注すればいい。

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(写真はイメージ) ©️iStock.com

 お前、原発行ったんだろ? だったら分かるはずだ。(原子炉)建屋とかタービン周りなんて、発電所の施設のうちの2割もない。大半は普通のビルを作る。事務所や休憩所、倉庫なんかだ。その他、関連会社のビルや周辺の道路整備なんかもある。たいてい、原発ってヤツはまともな道路すらない田舎に作られるから、その周辺一帯を開発するような形になる。食い込むチャンスはいくらだってある。

 それに原発には地元に土産が落ちるからな。そのおこぼれにだってありつける」

 1Fの場合、もっともわかりやすい土産はJヴィレッジだろう。

(写真はイメージ) ©️iStock.com

 1997年、東京電力などの出資によって作られたJヴィレッジの総工費は130億円あまりと言われる。1Fの関連企業に暴力団のフロント企業が存在する事実をみれば、地元懐柔のために作られた箱物建設の利権に暴力団が食い込んでいないと考えるのは不自然だ。1F周辺の地域共同体が暴力団を異分子として扱っていないのは分かっていた。この一帯では、暴力団が反社会勢力と認識されておらず、あくまで社会悪として存在している。