男性が働くことを前提に整備されてきた職場環境
不満として最初に挙げたのは、第六章で取り上げた軽トラドライバーの杏子さんと同じく「お手洗い(トイレ)の問題」だった。ユミさんは「女性専用かつ衛生的で、パウダールームが併設されていたり、女性にとって使い勝手のいいトイレが物流現場にもっと普及してくれれば、女性ドライバーたちにとって、もっと働きやすい環境になる」と指摘する。
トラック輸送の現場は長らく、男性のみが働くことを前提に職場環境が整備されてきた。それだけに、女性用トイレの絶対数が足りないなど、未だ女性ドライバーたちへの配慮に欠けている感は否めない。
「トイレ問題」と言えば、もともとは清涼飲料水などが入っていた空のペットボトルに尿を入れて、路上や道路脇の植え込みなどに“ポイ捨て”されていることが一時期、社会問題として取り上げられたことがあった。ポイ捨て犯の大半は男性のトラックドライバーだとされている。物流拠点への入線待機中や渋滞運転中など、トイレに駆け込めない時に、空のペットボトルをトイレとして代用している。
緊急時とはいえ、看過できない行為だ。ただ、身体的な構造や羞恥心からペットボトルを使えない女性ドライバーたちからすれば、そうやって用を足せる男性は羨ましい面もあるという。詳細はのちの第八章で触れるが、こうしたトイレ問題を解決することは、トラックドライバー職への女性進出を促していくうえでも、運送業界全体として避けて通れない道であると言えるだろう。
インスタ映えしないカー用品
ユミさんはトラック向けカー(CAR)用品にも不満を持っている。作業用手袋をはじめ、運転席に置く小物類、シフトレバーやハンドル用のカバーなど、「自家用車向けに比べ、商用車(トラック等)向けのカー用品は、とにかくイケてない。男性だけが乗務することを前提に開発されており、その商品のほとんどはインスタ映えしない」(ユミさん)。
ピンクやパープルなど女性が好む色を使ったアイテムがこれから増えていくといいですね、と返したところ、間髪を入れずに “マーケティング講座”が始まった。
「色はもちろん、柄や形状、キャラクターやロゴなど、女子の好きな要素がたくさん盛り込まれたアイテムが必要。それらに囲まれながら毎日運転の仕事ができたら、女性ドライバーたちはもっとテンションが上がるはず」
いま市場に出回っているアイテムにまったく魅力を感じていないユミさんは、行きつけのカー用品ショップのオーナーに、女性トラックドライバー向け商品を共同で開発することを持ちかけた。自身や女性ドライバー仲間たちのインスタを活用した拡販も提案した。しかし残念ながら、色よい返事はもらえなかった。
恐らく、オーナーが開発に二の足を踏んでいるのは、潜在的なニーズも含め、商品のターゲットとなるマーケットの規模がまだまだ小さいからだ。実際、日本国内でトラックのハンドルを握っている女性ドライバーの数は2万人程度にとどまっている。