50歳を過ぎたころ、人生の「謎」である老いと学びについて深く考えるようになった武田鉄矢さん。本を読み、身体を動かし、人と語らったことを思い返し、ノートに書き留めるようになったという。武田さんの著書、『老いと学びの極意』のなかから長嶋茂雄、野村克也、星野仙一、江夏豊など、往年の野球選手たちとのエピソードを紹介します。
野球カードの人たち
今、振り返ればそれは貴重な上に、希少な体験だったに違いありません。今頃になってその値打ちを肌身に感じ入り、記憶の引き出しから取り出して机の上にズラリと並べてみようという心境になっています。何故、そんな心境になったのか。あのですねえ、長いこと生きておりますと、謎のような出来事や言葉に遭遇することがありまして、「謎」というヤツはひとつだけでは謎のまんまで解きようがありません。
で、そこからまた長く生きて来ますと、なんだかその言葉によく似た「謎」に出会うことがあるのです。(あれ、これ見たことあるなあ)なんて「謎」を並べて見比べているうちに、2つとも同じ紐の結び方で包まれていることを見つけたりして……その結び目を爪で摘(つま)むと硬い結び目が緩み、パラリと、その「謎」が解けそうで……。
それで、最初の「謎」を先ず、取り出すために筆を執ったのですが……これが豪華絢爛な「謎」でして、今更ながら価千金と感慨にふけっているのです。
では、その最初の「謎」とは……野球カードの人たちとの出会いです。それは私、30代初めの元気盛りの頃。あるラジオ番組の企画で巨人軍ONについてのインタビューをライバルたちから聞き集めるという内容でした。ONとは勿論、王貞治・長嶋茂雄両氏のこと。ふたりとも現役は引退なさり、監督を務めたり、「充電」と称してスポーツ解説の任に遊ばれておられた1980年代のこと。そのラジオ番組は確か、雨傘番組でして、ナイター中継が雨で流れた場合、野球の話題で放送時間を埋めるための企画でしたが、評判は良かったようです。ONと功名を賭けて競い合ったライバルたちが在りし日の、その一球一打を語ってくれるのですから勝負の綾の、その肌理の細かさは傾聴に価します。