長嶋さんからゴルフに招待されて
で、そんなラジオ番組からスピンアウトして、付け足しのこぼれ話。よくぞ、色々とプロ野球人の話題を取り上げて下さったと主役の長嶋さんからゴルフに招待されまして……とてもとても御付き合い出来る腕前でなし。それで、ゴルフ上手の小田和正さんを助っ人に頼み込み、横浜近くのゴルフ場で遊んだことがあります。
長嶋さんは野球業を一時離れてスポーツ解説などでも超一流の人気者でした。沈着冷静な小田さんと少年のように夢中で打ち興じる長嶋さんは見事な対照でしたが、そのプレー中、ティーグランドでのこと。その日、ボールをやや引っ掛け気味の長嶋さんはそのミスが許せないのか、私どもから離れてドライバーで素振りを始めたのです。嘗ての栄光の背番号「3」が、道具が違うとはいえ、素振りで虚空を斬るのです。音が違います。
あのクールな宮大工の棟梁然とした横顔の小田さんが棒読みの声で「すげえ」と驚嘆。私が驚いたのは長嶋さんのひとり言でして、その呟きは「誰か投げてくんねえかなあ」。
長嶋さんはバッターボックスで勝負したあのライバルたちとの瞬間が懐かしいのです。あの瞬間、飛んでくるボールには、熱きライバルたちの叫び声が込められていた。その叫び声に身体を熱くしてバットを振り出したがゴルフ場では身体は冷えたまま。白いボールを置いて、睨んでも止まっているボールからは誰の声も聞こえないのでしょう。
耳以外の耳で聞き、目以外の目で見て、口以外の口で話す人たちは体感の人たちです。その上に身体に記憶を刻んでいて、思い出を身体のあちこちに収めた人たちで、私にとって今も名人列伝の人たちです。