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好きなタイプではなかったけど…

 ちなみに後から知ったのですが、その日の彼は本当に体調が悪く、私と別れてから病院に運ばれインフルエンザと診断されたそうです。転んでしまったのも、きっとフラフラだったからなのでしょう。

 それからはしばらく連絡はありませんでしたが、約束通りに彼の誕生日に電話をしてみました。

 彼はすぐに出て「ずっと待っていたんだよ!」と大喜び。私が教えた電話番号にかけてもつながらず、NTTに問い合わせまでしたところ、住所は合っていると言われて、嘘を教えた訳じゃないと思っていたとのこと。そのころ私は引っ越したばかりで、自分の電話番号を間違えて伝えてしまっていたようなのです。

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 彼はそのとき友達とお寿司屋さんにいたのですが「きっと誕生日には彼女からかけてきてくれるはずだ」と、一日中、携帯電話を持ち歩き、お寿司屋さんのカウンターの上に置いて、着信を信じ、ジーっと見つめて待っていたそうです。

©iStock.com

 そんな純粋さに惹かれ、それからは毎日電話でお話をするように。最初「好き」という感情はなかったのですが、一生懸命な彼に徐々に気持ちが傾き始めました。

「彼は変わっているからやめたほうがいい」という知人からの話を聞いて悩むこともありましたが、何度か会ううちに精いっぱいのアピールをしてくれる彼に信頼を持てるように。こうして交際が始まりました。

 正直に打ち明ければ、彼は私の好きなタイプだったわけではありません。だけど、私はあのころ、彼の恥ずかしそうにはにかんだ笑顔が大好きでした。こんなふうに言うと彼は嫌がるかもしれませんが、優しげに眉が八の字に下がった、まるで天使のような唯一無二の笑顔でした。人気が出つつあっても調子に乗るようなことはなく、子どものようにいつも褒めてもらいたがる、無邪気な青年でした。

 当時は年俸もまだまだ低い中、お金を借りて300万円で買った、中古の赤いベンツのオープンカーで、道もわからないのに新大阪駅までうれしそうにはにかみながら迎えに来てくれたことは、今でも鮮明に覚えています。