「お金のことはともかく、依頼者以外の人が関わりはじめると、デスマスクは作れないかもしれません。例えば『デスマスクなんて、作ってどうするの』と言われると、説明しにくい。最近も依頼翌日、私が現場に出発しようとしていたタイミングで断りの電話がありましたが、やはり周りの人に知られて反対されたようです」
葬儀社で学んだ経験を生かす
製作を引き受けるのは、現段階では、権藤さんが車で向かえる範囲となる関東近郊。製作道具がそれなりの量になるため、電車や飛行機での移動は難しいためだ。
現場に到着して、最初にすることがある。葬儀社時代と同じように、まずは遺体に手を合わせることだ。
「そうすることで、依頼された遺族の方に安心感を与えますからね」
そして依頼者に、製作作業の流れを説明する。権藤さんの友人の顔から作ったライフマスクの写真を見せて、製作プロセスや仕上がりのイメージを共有するという。
「だいたい30分ぐらい念入りに説明をしますね。それで納得をしていただいたうえで、実際の作業に移ります」
相手は、愛する家族を失って間もない遺族だ。こういう細やかな心遣いが必要なことも、権藤さんは葬儀社で学んだという。
一通りの説明を終えて、依頼者が納得したところで、ようやく型取り作業が始まる。顔にゲル状のシリコン樹脂をかぶせ約30分程度。硬化が始まったら、その上から補強材としてガーゼを敷き、さらにもう一度、シリコン樹脂を塗る。しばらく置いておくと「型」が完成する。ここまでにだいたい3時間ほど。遺体に作業の跡は残らない。
実際にシリコンで作られた「型」を見せてもらうと、想像以上にリアルな仕上がりで、しわや毛穴も見事に再現されている。私には「人間の顔そのもの」のように見えた。
依頼者の自宅での作業はそこまでだ。出来上がったシリコンの型を、工房に持ち帰って1週間。石膏もしくはブロンズでデスマスクを仕上げ、特注の木箱に入れて、遺族の自宅へ郵送することになる。
しかし、これで権藤さんの作業が終わるわけではない。
デスマスクが依頼者の元に到着したころに、必ず直接電話をして話をすることにしている。これが権藤さんなりのこだわりで、「安心感を与える」という、やはり葬儀社勤務の経験から始めたものだという。
「実際にできあがったデスマスクを見たところで、『いかがでしたか』と聞くことにしています。『お願いしてよかった』と言ってもらえると、私も救われますよ。特別のものだからこそ、デスマスクは先払いではなく、後払いにしています。大して満足もされていないのに、お金をもらうのは、何となく違うような気がしていましてね」