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死者の顔を型取りして作る「デスマスク」日本唯一の職人が千葉にいた

2020/11/29
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依頼者はデスマスクに何を求めているのか?

 権藤さんの話を聞くうちに、「デスマスクを作ってほしい」という思いはどこから来るのだろうかと気になり始めた。

 その疑問を解決するために、今度は権藤さんの紹介で、デスマスクの製作を依頼した女性、Aさんを紹介してもらった。

 20代後半の大学院生である彼女は、ちょうど1年前(取材時)に54歳のエンジニアの夫を脳腫瘍で亡くしたという。しかし、なぜデスマスクを作ろうと思ったのだろうか。

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「たまたま東野圭吾さん原作のテレビドラマ(福山雅治主演『ガリレオ』のこと)で、デスマスクのことを見ていて、これは実際に作れるのかなと思って、パソコンで検索すると権藤さんのサイトがヒットしたんです」

 Aさんに権藤さんに依頼した時のことを聞いたのだが、「正直、気が動転し慌ただしかったために細部は憶えてない」という。ただ、製作作業にはAさんも、もちろん立ち会った。

(筆者撮影)

 一連の作業を終えて、2週間後、亡くなった夫のデスマスクはAさんに引き渡された。実際にできあがったものを見て、彼女は第一印象として「面白い」と思ったという。

「見る角度によって、表情が変わってくる。これも生きている時と同じで、見る角度によって、笑っているように見える時もある。もちろん生きているそのままではない、寝ている顔だし、亡くなる直前は頬がこけていたので、(元気な頃とは)少し違いますが、本人の顔そのままです」(Aさん)

 今回、取材のために、デスマスクを持参してもらった。まじまじと見るとうっすら目が開いているようにも見える。権藤さんによると、作業中にまぶたを閉じさせようと、タオルで温めたりしたのだが、うまく閉じなかったという。

 また、デスマスクは金色に塗られていた。これについて、権藤さんは、「金色に塗るのは、立体感を出すためで、石膏のままより生々しくないと思います」と話す。

 これは権藤さんが編み出したオリジナルな技法のようだ。Aさんにとって、亡き夫のデスマスクはどんな意味があったのだろうか。

「私としては精神的な助けになった。形が残るというのは意味があるなぁと思います」(Aさん)

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