「美術学校を出たんですが、彫刻家として大した活躍はできなかったんです。それで、イタリアに留学した友達を頼って半年ほど滞在したり、様々な模索をしたんですが、そのうち結婚をして、子どもができたんです」
権藤さんは20代で彫刻家を志し、4年制の美術学校を卒業。30代はヨーロッパを遊学した。しかし、彫刻家として芽は出ず、家族を養うために葬儀社で働くようになったのだという。
「葬儀社に勤めるようになっても、やっぱり心の中では『彫刻をやりたい』という気持ちが残っていたんですね。空いた時間に、木を彫ったりしていたのですが、そんな生活をしているうちに私の親が、立て続けに亡くなったんです」
最初は父親、数年後に母親を見送った。その時に、ふと「デスマスク」の存在が頭をよぎったのだという。
「母親の時は火葬にした後に、猛烈に後悔の念が押し寄せてきたんです。『デスマスクをとっておけばよかった』と。というのも、イタリア滞在中に、墓地に置かれていた死者をかたどった塑像(粘土や石膏で作られた像)を、数多く目の当たりにしたことが大きいかもしれません」
そして5年前、仕事をリタイアするにあたって、一大決心をした。
「残りの人生、デスマスクを作ってみようと思いました。それまで自分が美術学校やイタリアで習ったこと、さらに葬儀の知識をうまく融合できれば、もしかしたらうまくいくのかもしれないと思ったんですよね」
デスマスクは「こうやって作られる」
権藤さんによれば、彫刻家にとってデスマスクは結構身近なものらしい。美術学校で専門的な教育を受ければ、そのカリキュラムに「塑像製作」というものが含まれている。その技術は、そのままデスマスク製作にも応用できるのだそうだ。
「デスマスクの作り方は、彫刻を学んだ人は誰でも知っているはずです。昔は石膏やロウを、顔に直接流して作っていましたが、今は材料が良くなって、シリコン樹脂で型を取ります。その型に石膏を流し込むんです」
細々とホームページの宣伝のみで、事業を始めた。
「それでもポツポツと依頼が来るんです。不思議なものです」
これまで手掛けたデスマスクは約40体。デスマスクの製作費は1体12万円(生きている人間のライフマスクは9万円。ともに石膏像の場合)。交通費などの実費は別である。追加費用が必要だが、ブロンズ像に仕上げることも可能だ。
実際にデスマスクはどんな工程で作られているのだろうか。
基本は遺族である依頼者の自宅で作業をする。というのも、斎場はデリケートな場だ。他の親類も出入りすることから、依頼者以外との関係性が生じてくる。いざ作業を始めようとしても、「待った」がかかることも想像に難くない。そのため、斎場ではなく、自宅の方が最適であるという。