お金儲けこそが自分に与えられたミッション
西 錚々たる方々が登場されるので、描きがいがありました。ちなみに、ご自分のキャラはどうお感じになりました?
村上 ちょっと軽いかな、と思いました。
西 すいません! 作者の軽さが出てしまいました……。
村上 いやいや、そういう意味じゃなくて、ファンドマネジャーというのは他人様のお金を預かってるわけで、甘い立場じゃないんです。ファンドマネジャーとして、当時はお金儲けこそが、自分に与えられたミッションだと割り切ってやっていましたから。
西 なるほど。
村上 ワンマン社長が会社を私物化していた東京スタイルのときは、株主総会でプロキシーファイト(委任状争奪戦)を仕掛けたり、株主代表訴訟を起したりと、徹底的にやりました。仲裁に入ったイトーヨーカ堂会長の伊藤雅俊さんに「俺の顔をつぶすのか!」と怒鳴られましたが、あのときのお顔が今も思い浮かびます。考えてみれば失礼な話ですよ、せっかく和解させようと尽力くださったのに、僕がガチンコ勝負にこだわったために、決裂してしまったわけですから。
西 しかし、村上さんのアクティビストとしての活動がきっかけとなって、株主が経営者を監視するコーポレート・ガバナンスが日本に浸透することになるわけですよね。
村上 強引に歯車を回し始めたんですよ。ちなみに、これを描くのにどれくらいの時間がかかりましたか?
西 連載は毎月18~20ページでしたが、1ページ仕上げるのに丸1日以上かかることもありました。
村上 そんなにかかるんですね。登場人物がみんなとてもよく似ています。
西 ありがとうございます。
村上 東京スタイルの社長だった高野義雄さんも似てるし、阪神電鉄の役員だった玉井英二さんもそっくりです。僕だけはもう少し美男子だと思うけど(笑)。写真を見て描くんですか?
西 まず、ネットで顔写真をバーッと集めます。ただ、昔の人だとネットで検索しても出てこないんです。だから、当時の週刊誌の写真をもとに、記事から伝わるイメージを加味して、キャラをつくっていきました。
いちばん描きにくかったのは「あの人」
村上 だからリアリティがあるんですね。描きやすかった人、難しかった人とかいますか?
西 実は、両方とも堀江貴文さんなんです。僕はこの10年くらい「週刊プレイボーイ」をはじめいろんな媒体で堀江さんのカットを描かせてもらっていて、『刑務所いたけど何か質問ある?』という本まで共著で出させてもらいました。ある意味、いちばん描きなれている顔なんです。ただ、それらは堀江さんの視点で描いているわけで、今回は極力客観的に描くべきだと思ったんです。新進のIT起業家として世間に登場した当時のイメージを再現したかった。そこが逆に難しかったですね。
村上 なるほど。漫画でもIT系の起業家たちがたくさん出てきましたね。
西 IT経営者との交流も入れさせていただきました。そういえば、最近ドラマ化された『ネット興亡記』でも当時のことが取り上げられていましたね。
村上 サイバーエージェント社長の藤田晋さんを僕が脅したという場面ですね、ひどいですよね(笑)。藤田さんにも「僕だけ悪者にして、ひどいじゃないか」と抗議したんです。彼は「当たり前じゃないですか、どうやって自分をよく見せるかですよ」って笑ってましたけど。まあ、会社を設立して2年で上場して、何が何だか分からない状態だったらしいですが。いまや時価総額8000億円ですからね、たいしたものです。
西 意気揚々とされてますよね。
村上 そう考えると、IT起業家のなかでは堀江さんがいちばんワリを食っているかもしれないですね。あの事件がなかったら、数兆円の資産を持っていたんじゃないでしょうか。新しい事業に対する先見の明は抜群でした。LINE だってライブドアから発展したわけじゃないですか。いまはコメントをされるだけの立場で、もったいないなぁと思います……。