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オレハマッテルゼ、モチ、ビックリシタナモー…珍名馬界のレジェンド馬主が明かす「協会に却下された実況アナ泣かせの馬名」

オレハマッテルゼ、モチ、ビックリシタナモー…珍名馬界のレジェンド馬主が明かす「協会に却下された実況アナ泣かせの馬名」

ジャパンカップで思い出すコントレイル“アナザーストーリー”

2020/11/29
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「それまでは冠名とかが多く、変わった名前をつける人はいなかったですよね。ぼくは競馬ファンから馬主になったので、ファンに喜んでもらえるような馬名をつけようと思いましてね。ぼくの馬が活躍してファンの皆さんが喜んでくれると、馬主として多少は役に立ったかなと」

右へ左へ急に動くから「ラグビーボール」と名付けた

 小田切氏に記憶に残る馬をきくと、ラグビーボール、アサキチの兄弟と中山大障害に勝ったパンフレットの名前があがった。

「記憶に残るというより、思い出の馬ですね。パンフレットは障害で走ってくれたバッショウ(跋渉)の弟で、種付けしたときから大障害をめざしていて、8回連続で中山大障害に出て、勝ってもくれた。ラグビーボールは当歳のときに牧場で見たんですが、右へ左へ急に動く。それは異常なほどで、ラグビーボールのようだ、と思ってつけた自信作です。ダービーの1番人気(4着)になりましたし、人気も出て、よかったなと。のちにサッカーボーイとか出てきましたけど、当時はそういう名前をつける人はいなかったですからね。弟のアサキチは『悪名』で勝新太郎が演じた八尾の朝吉から。弱きを助け強きを挫く朝吉親分のようにと思いまして」

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アナウンサーを困らせる「奇をてらった名前」

 小田切氏のネーミングには大別すれば3つのジャンルがあると言う。1つは前述した郷愁。2つめはメッセージ性のある名前で、グローバルゼロ、ノーモア、エガオヲミセテ、サンゴノウミヲ、キヲウエタオトコなど。オジサンオジサンやカミサンコワイなども競馬好きの中高年に向けてのメッセージとなるのだろうか、よく響く。

 そして3つめが「奇をてらった名前」ということになる。「冗談ばかりでね」と笑うが、ある意味、これが小田切氏の真骨頂である。

「アナウンサーを困らせようと思いまして、ドーモスミマセン、ニバンテとか申請をしたら、『勘弁してください』と却下されたり、ノロノロは『うしろから行ってくれ』と調教師に冗談を言ったりしました(笑)」

 馬名登録はジャパン・スタッドブック・インターナショナルという公益法人がおこなっていて、細かな登録基準がある。馬名はカタカナで2文字以上9文字以下。過去のGⅠ馬や著名な繁殖馬の馬名、国際的に保護されている馬名、商品名や広告宣伝を目的とした競走馬としてふさわしくない馬名などは登録できない。さらに「奇きょうな馬名」という審査基準があり、そのなかの「実況放送、成績掲載等に支障を生ずる用語」に抵触したのだろう。

オマワリサンは逃げることのほうが多かった

 アナウンサーの心中はわからないが、小田切氏の思惑どおりにレース実況をおもしろくした馬にはモチ、オマワリサン、ビックリシタナモーなどがいる。モチは伸びて粘り、オマワリサンは逃げ馬を追いかけて捕らえたこともあったが、逃げることのほうが多かった。ビックリシタナモーは今年10月には10番人気で2着に追い込んできてファンを驚かせたばかりだが、故障が判明して惜しくも引退が決まった。

モチは通算37戦3勝。逃げ粘るレースを得意とし、アナウンサーがよく「モチ、粘る! モチ、粘る!」と実況した ©©Photostud
ビックリシタナモーがファンを一番ビックリさせたのは2016年の2歳未勝利戦。13番人気で2着に入り、馬連は13160円ついた ©©Photostud

 ここからは、数ある小田切氏作の“珍名馬”から、ほんの一部を並べてみよう。