小田切氏作の“珍名馬”馬名
最初はモチとおなじ2文字の馬名から、ナゾ、ロロ、ワナ、タコ。タコは凧だ。
イエスマン、ゴマスリオトコ、ノンキ、フウライボウ、オコリンボ、ドモナラズ。
オジャマシマス、サアドウゾ、メシアガレ、オソレイリマス、モグモグパクパク、マズイマズイウマイ、オカゲサマデ、サヨウナラ。
ケイバズキ、トッケンショウブ、オオアタリ、オメデトウ、フクラムサイフ、ニコニコママ、ヨッテウタッテ、スバラシイキョウ、メデタシ。
イカガデスカ、ダイコウヒョウ、オモシロイ、ワラッチャオ、ハハハ……。
小田切氏がつける馬名は単語とか名詞にとどまらない。格好良く、響きのいい、きれいなことばで飾ろうともしない。コロナのなかで飛び交った無責任な横文字とは対照的に、これでもかと人の心をくすぐる、遊び心(アソビゴコロもいた)たっぷりの“珍名馬”の世界が広がっている。小田切氏は言う。
「ぼくの基本は日本語なんです。それは、子供でも、誰にでもわかってもらえるように、日本語で、覚えやすく、少し変わった名前で、馬主としての主張もちょっと入れる。以前は手帳が真っ黒になるほど候補の名前をメモしていました。新聞やテレビで見て、これはいいな、と思った名前をすぐにメモするんですが、候補が100あって、1作もできないこともある。失敗作? それはたくさんありますよ。最初は『なんでこんな名前を付けたの』と言われても、あとで良かったと言われるようになるが、ずっと『なんで?』と言われた馬はずいぶんいました。これまで700頭ぐらい名づけて、愚作が山ほど(笑)」
コントレイルの福永祐一騎手と、その父・洋一さん
さて、今週のジャパンカップである。わたしには、ひとつだけ小田切氏に訊きたいことがあった。コントレイルの福永祐一騎手についてである。「洋一くんの事故ですね」と小田切氏は言った。福永騎手の父、洋一さんは「天才」と謳われた名騎手だったが、79年の毎日杯で小田切氏のマリージョーイで落馬、一時生命も危ぶまれるほどの大怪我を負い、騎手引退を余儀なくされたのだった。
「じつは、祐一くんがデビューしたとき、ボンネット(女性用の帽子)という馬の松元茂樹調教師が『祐一くんを乗せたいんですが』と言ってきましてね。彼はマリージョーイがぼくの馬だと知らなかったようなので、事情を説明して『ちょっと待ってほしい』と。ぼくも乗ってほしかったけど、事故の時の勝負服ですからね。まずは『小田切の勝負服を息子さんに着せていいか、ご家族の思いをきいてもらえないか』と調教師に伝えた。それで、知り合いの人を介して福永家に伺いましたら、『ぜひ、乗せてやってください』と言っていただきましてね。そうしたら、勝ったんです。嬉しかったですねえ。それからは祐一くんにはなんども乗ってもらいました」
ジャパンカップについて、小田切氏は「先々を考えれば、3歳の2頭が鼻面を並べてゴールするようなレースが見たい」と言った。