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連載春日太一の木曜邦画劇場

ギラついた眼差しの人斬り五郎が渡をスターにした!――春日太一の木曜邦画劇場

『大幹部 無頼』

2020/12/01
1968年(97分)/日活/3000円(税抜)/レンタルあり

 河出書房新社のムック「文藝別冊」シリーズで渡哲也の特集号で渡哲也の特集号が発売されたのを記念して、今週も渡の主演作を紹介してみたい。

 渡の代名詞的な役柄といえば、『大都会』の黒岩刑事や『西部警察』の大門部長刑事といったテレビドラマで演じた刑事役が思い浮かぶ人も少なくないだろう。一方で、日活の若手スター時代からファンだった人たちからすれば、「人斬り五郎」ということになるのではないだろうか。

 これは、一九六八年一月から六九年三月までの一年強の間に全六作が公開された「無頼」シリーズで渡が演じた役柄である。当時は看板となるシリーズを持つことが映画スターの条件とされており、ここで初めて主演シリーズを得たことで、渡はトップスターへの切符をつかむことになる。

 中でも、今回取り上げるシリーズ第二作『大幹部 無頼』は、魅力が遺憾なく発揮された作品としての呼び声も高い。

 ここで渡が演じた「人斬り五郎」こと藤川五郎は、正義感の強い一匹狼のチンピラだ。

 前作のラストで友の復讐を果たした五郎が、自らを慕う雪子(松原智恵子)の待つ津軽に向かうところから、物語は始まる。全てを捨てて荷役人としての堅気の暮らしをする五郎だったが、過去の因縁と生活の苦しさが、望むような幸せを送らせてはくれない。五郎は再び暴力の世界へと足を踏み入れることに――。

 舞台は横浜に移り、裏社会にしか生きられないアウトローたちの人間模様が錯綜する。五郎はそうした世界を嫌がり、その表情はいつも浮かない。

 苛立ちや空しさを漂わせながら、眼差しは鋭くギラつく。そんな渡の演技が、五郎の抱える薄暗い鬱屈と暴力性を見事に表現。暴力の世界から逃れることのできない男の苦しい葛藤が、ひしひしと伝わってくる。

 そして、積み重なってきた重くまとわりつく情念は、ラストの決闘シーンで爆発する。

 自らをさんざん利用してきた上に、関係深い人々を次々と殺したヤクザの親分・木内(内田良平)を五郎は襲撃する。それを迎え撃つ木内たち。

 その闘いは、決して颯爽としたヒロイックなものではない。傷だらけになりながらもドブ川で息を切らして這いつくばり、短い刀身のドスを握りしめて自らの肉体ごと敵にぶつかっていく。その必死な全身からは、強烈な怒気と殺気が放たれていた。

 自ら身体を張り、全身全霊で撮影に挑む。そして、あらん限りの感情をぶつける――。そんな渡の姿に小澤啓一監督やスタッフたちは感激し、渡とともに日本のアクション映画の新たな地平を切り開くことになっていく。

日本の戦争映画 (文春新書 1272)

春日 太一

文藝春秋

2020年7月20日 発売

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