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連載春日太一の木曜邦画劇場

幻の作品が遂にソフト化! 勝新は監督としても凄いぞ!――春日太一の木曜邦画劇場

『顔役』

2020/12/08
1971年(98分)/東宝/2500円(税抜)

 やってくれたぜ、東宝!

 勝新太郎が率いる勝プロダクションの未DVD化作品を東宝が四作まとめてソフト化したのだ。素晴らしい。

 それを記念して、今回からしばらくは新たに発売された勝プロ作品を紹介したい。まず取り上げるのは『顔役』。勝新太郎が自ら初めて監督し、主演もした作品である。

 実は本作はこれまでDVDどころかVHSですら発売はなく、長らく名画座や衛星放送でしか観ることのできない、「幻の作品」であった。それだけに、今度のDVD化は待望の出来事といえる。

 勝が演じるのは、大阪府警の暴力団対策課の刑事・立花。この男はとにかく破天荒で、日頃から野球賭博や賭け麻雀などを通じてヤクザと交友をもち、「アイツはどっちの人間か分からん」と上役(大滝秀治)に言われている。それでもヤクザ対策について仕事熱心で優秀な刑事なのだが、問題は捜査方法もルール無視なこと。ヤクザ組織が裏で暗躍していると疑われる信用金庫の不正融資事件では、証拠をつかむためにヤクザに化けて信用金庫の支店長(藤岡琢也)を脅したりもしていた。

 そのため、保身を図る上司の命令で捜査は止められる。そして「こんな安い月給で働いてられるかい!」と警察手帳を捨てると、自らの手でヤクザ掃討へと動き出す。

 キャラクターも破天荒だが、それを撮る勝の演出もまた破天荒だった。この当時、創作への意欲を強く持ち、既存の演出手法に疑問を抱いていた勝は、より新鮮で刺激的な映像を志向するようになっていた。その結果、従来の日本映画ではなかなか見られなかった、トリッキーな映像が次々と撮られることになる。

 たとえばシーンが変わる時、通常は新たなシーンの最初では場所や人物配置を説明するカットが入る。が、勝はそれを退屈だとし、大滝の頭や水虫を治す勝の足先のアップからシーンを始めているのだ。そのため、観ていると「ここはどこで誰がいるのか」が一瞬分からなくなる。他にも、会話シーンではガラスに映った相手の顔に向かって話しかけて左右の感覚を逆転させたり、光沢のある机に逆さに反射された顔が画面全体に映し出されて上下を逆転させたり。観る者を混乱させる映像が続いていくのである。

 支店長を脅すシーンでは立花目線からの主観ショットのみで撮り、勝は映ることなくその声だけが聞こえてくることに。スターとして目立つ自意識より、創作者として撮りたい映像を優先させたのだ。

 暴れん坊を演じるスターとしての魅力と、前衛的な創作者としての才能。双方を楽しめる作品、この機会にぜひ。

日本の戦争映画 (文春新書 1272)

春日 太一

文藝春秋

2020年7月20日 発売

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