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連載春日太一の木曜邦画劇場

勝新が直情キャラなら、若山富三郎は人情味を堪能せよ!――春日太一の木曜邦画劇場

『桜の代紋』

2020/12/15
1973年(89分)/東宝/2500円(税抜)

 今回は『桜の代紋』を取り上げる。前回の『顔役』と同じく、勝新太郎が率いる勝プロダクションによる作品で、四作まとめて初DVD化となったうちの一本である。

 主演は勝の実兄・若山富三郎。当時の若山は「子連れ狼」シリーズを大ヒットさせており、勝プロの稼ぎ頭だった。

 本作で若山が演じるのは、暴力団を取り締まる刑事。やくざ以上に暴力的で、掟破りの捜査も平気でする。――と書くと「おや?」と思われる人もいるかもしれない。

 そう。前回の『顔役』で勝が演じた立花刑事と同じキャラクター設定なのである。

 それもそのはず。実は、『顔役』にはモデルとなる実在の刑事がいて、そのアイディアを勝に伝えたのが誰あろう若山。それだけ思い入れのあるキャラクターなのだろう。『顔役』から二年後に作られたのが、この『桜の代紋』だった。

 若山は主演だけでなく、本作の「原作」と「製作」にもクレジットされており、さらに役名も自身の本名と同じ「奥村」。若山の企画に対しての凄まじい熱の入れようをうかがい知ることができる。

 タイトルにある「桜の代紋」とは、警察バッジの「桜」のマークのこと。劇中で奥村刑事が「桜組のモンや」というように、「桜」を「やくざの代紋」に見立て、やくざ顔負けの暴れっぷりを見せる。

 とは言え、同じ暴れん坊の刑事でも、演じる俳優が異なることもあり『顔役』とはややキャラクターは異なる。どこか蒼い正義漢ならではの熱い直情さがあった勝に比べ、若山には老練さがある。

 収監されたやくざの娘を養子にして破談寸前の婚約を成立させる場面で見せた温かさ。若き日の関口宏が演じる、頼りない感じの刑事との漫才のようなやりとり。硬軟を自在に使い分ける名演により、百戦錬磨のベテランらしい豊かな人情味を表現していた。

 演出スタイルと映像も大きく異なる。『顔役』は勝新太郎が自ら監督している。勝の演出が徹底して前衛的でスタイリッシュなのに対し、本作は「子連れ狼」シリーズも撮っていた三隅研次監督の特性もあり、一つ一つの映像はガッチリと重厚である。

 そして、終盤の展開も大きく異なる。頭脳戦でやくざを壊滅させる爽快さのあった『顔役』に対し、本作は苦い。

 奥村はやくざに愛する者を奪われ、自身も心身に深い傷を負う。そしてボロボロになりながら、単身で敵地へ乗り込むのだ。バイオレンスの壮絶さと、裏側の哀愁。三隅―若山ならではの、血生臭くも重苦しいアクションだった。

 この機会に二つの作品を見比べて、兄弟それぞれの魅力を堪能するのも一興かと思う。

日本の戦争映画 (文春新書 1272)

春日 太一

文藝春秋

2020年7月20日 発売

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