「子どもはどうするの?」
話を不倫相手の男に戻そう。
金が無い、金が無いといいながら、男に小遣いを渡していた位だから、詩織の側が男に強く魅かれていたということは想像ができる。
ただ、男性に「家を出て一緒に暮らそう」と言われた時、詩織は「子どもはどうするの?」と尋ね「いらない!」と言われている。そのため、「まるで冷水を浴びせられたようなショックを受け、2人の関係は急速に冷めていった」と手記に記している。
後に、この男性は法廷で「束縛されているなど旦那の悪口を山ほど聞かされた。そのうち殺してくれと頼まれたが断った」と、夫殺しの依頼があったという証言をしている。報酬は夫が死んで入る保険金だという。
ある捜査関係者はこんな解説をする。
「男は暴力団関係者。詩織はそれ以前にも、周辺に夫殺しを依頼していたという証言もある。だからマル暴の不倫相手には体と金を貢げば殺しを引き受けてもらえると思い、あえて近づいた可能性も考えられる。もちろん男は、世の中の表も裏も知る極道。中国女の手練手管や、はした金で一生を棒に振る筈もない。だから二人はアッサリ別れたともいえる」
詩織は法廷でこの夫殺しの依頼をキッパリと否定している。しかし検察側も冒頭陳述(以下、冒陳)で、この事情をこう断罪している。
『被告人は平成14年(02年)春ごろ当時男女関係にあった暴力団構成員に対し、また同年7月ころ暴力団構成員と交際していた友人に対し、それぞれ被害者(鈴木茂)死亡による生命保険金から報酬を支払うことを引き換えに被害者の殺害や被害者殺害を請け負う人物の手配等を執拗に依頼していた。しかし被告人はいずれからも被害者殺害や、その手配を断られたため被害者殺害を実行するまでには至らなかった』
さらに、なぜ詩織に、そうした“殺意”が芽ばえたかを冒陳ではこう指摘する。
『被告人は被害者が家計の管理を被告人にゆだねることなく自ら行っていることが常々不満であった。被害者とすれば被告人の求めに応じて、その都度、必要十分な金額を交付していたが被告人はそれでは満足できず、自分が家計の管理を行えないために自分の思いどおりの金を手に入れられないことに苛立っていた。また被告人は被害者に度々金の無心をするものの、被害者がその必要性が低いと判断すると必ずしも希望どおりの金額を自分に渡さないことに対して不満を抱き、次第に被害者に対する憎しみを募らせていた』