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未婚女性の出産を支援する「さゆり法」

 さゆりのこれらの発言は、韓国社会を揺るがした。特に「韓国では未婚女性の人工授精による出産が不法だ」としたさゆりの発言を巡って、議論が湧き起こった。

 韓国の保健福祉部が記者らに配布したブリーフィング資料によると、韓国法律上、未婚の女性が精子寄贈を通じて出産をするのは違法ではないという。

 ただ、公的に寄贈された精子は既婚女性にのみ提供され、未婚女性は精子を寄贈する対象を自ら探さなければならない。その過程で、物品など対価を支払った行為が摘発されれば、生命倫理法違反になる。さらに、未婚女性の人工授精による出産は、政府から支援金を受け取ることができない。

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 このような関連法について、韓国社会では「時代に合わせて改善すべきだ」という要求が相次いでいる。与党は、現行の法律について検討を開始することを発表した。現在、合法と違法の間にある未婚女性の人工授精による出産を支援する「さゆり法」の推進への意欲も明らかにしている。

さゆりの出産を伝える韓国の三大紙「朝鮮日報」電子版(11月16日)

一人の日本人女性の選択が「新しい家族の定義」を導き出す

 さゆりの出産について、「父親なしで生まれた子どもがかわいそうだ」「エゴイストだ」などの反対意見も存在する。韓国の日刊紙「中央日報」が電子版で実施した非婚出産に対するアンケート調査には2万人以上の読者が参加し、反対と賛成が50対47で拮抗した。だが、「社会的にタブー視されてきた非婚出産問題を、公の場に引き出したことだけでも意味がある」との評価も多い。

 前出の大衆文化評論家、ファン氏が語る。

「出産は個人の領域のことだが、さゆりの出産は、韓国の女性たちに『自分を愛し、もっと堂々と自分の幸せを追求してもいい』という勇気を与えた。そのおかげで、今まで韓国社会が目をつぶっていた未婚女性の出産問題、そして多様な家族の形態についての議論も呼び起こしている」

 日本人の知らない一人の日本人女性の選択が、韓国社会を変えるかもしれない。さゆりの選択は、保守的な韓国社会にとって、新しい「家族」の定義を導き出すきっかけを作ったのだ。