話題を集める中国アニメ
『鬼滅の刃』にメディアが注目する中、日本のアニメファンの間では今『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』という中国から輸入されたアニメ映画が話題を集めている。3DCGではなく、中国のアニメーターたちによる手描きのアニメーションであり、日本のアニメコンテンツにキャラクターデザインなどの影響を受けつつ、極めて優れた技術とよく練られた脚本で日本のファンからも高い評価を受けている。
僕は「勃興する中国アニメに日本が負けるぞ」とか「優れた人材が奪われるぞ」と煽りたいわけではない。個人のアニメーターの目線で見れば、中国にもアニメ市場が生まれるのは希望ですらあるのだ。
絵を描く、というアニメーターの技術には、言語や文化の壁がほとんど存在しない。かつて日本のアニメ作品を中国や韓国のスタッフたちが下請けとして支えてきたように、日本のアニメーターたちがその技量を世界に高く売り、日本の映画観客が海外アニメのエンドロールに日本人スタッフの名前を見つけて誇らしく思う未来は、決して悪い未来予想図ではない。過酷な、報われない環境の中で体を壊し、筆を折ってしまうことに比べれば、アニメーターにとって海外市場が避難場所になる可能性だってあるのだ。
だが、その海外市場も常に開かれているとは限らない。新型感染症によって分断と対立を深める国際情勢の中で、海外スタッフが締め出されてしまう可能性もある。また、即戦力として海を渡る才能を生み出すためには、次の世代の人材は国内で育てなくてはならないのだ。
新人監督を育んできたミニシアター
足元の危機はアニメーターの労働環境だけに留まらない。大規模なシネコン映画館には一時的に『鬼滅の刃』の特需が降り注いでいるが、ミニシアター系の映画館はその恩恵もなく、第二波の中で経営危機に苦しんでいる。だが、ミニシアターはこれまで多くの新人監督を育んできた才能の揺り籠である。
西暦2000年、47席のミニシアター、下北沢トリウッドでは『彼女と彼女の猫』というわずか5分にも満たない短編アニメーション映画を上映していた。まったく客の入らない平日の昼間、スタッフはたった一人で映画を見にきた青年に気がつく。
誰もいない劇場で映画を見終わると青年は館主に挨拶をし、「次の映画製作も予定しています」と語った。下北沢トリウッドの山本達也氏によれば、その青年はまだ商業デビュー前の新海誠監督であり、館主に約束した次の作品が彼の名を知らしめた商業デビュー作品『ほしのこえ』だったのだという。
『ほしのこえ』公開初日にはすでに新海誠の評価は高まり、観客の行列が夜まで途切れず、わずか25分の短編を繰り返し、終電間際まで上映して観客を捌いたという。やがて『君の名は。』で興行収入100億を越える新海誠という才能の誕生についてよく知られる逸話である。
無人の映画館と満場の拍手を体験した新海誠監督は、「100億級監督」となった今も「『観客に届けたい』という気持ちと、観客からのレスポンス。観客と作品の両輪があって、ずっと続けてこれたのかもしれないです」と当時を振り返る。