『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の興行収入は、公開39日間で259億円に達した。これは『アナと雪の女王』の255億、『君の名は。』の250億という最終成績を1ヶ月あまりで塗り替える驚異的なペースである。言うまでもなく、メディアはコロナ禍での厳しい状況でのこの快挙にわき立ち、連日『鬼滅の刃』というコンテンツの爆発的ヒットへの分析が重ねられている。
『鬼滅の刃』が極めてユニークな、注目すべき作品であることにもちろん異論はない。だが、日本映画の興行収入ベスト10のほとんどがアニメーション、それも21世紀に入ってから作られた比較的最近の作品であることを考える時、今回の「鬼滅現象」は、「アニメーション映画の国民的娯楽化」という全体的な満ち潮の中で起きたひときわ大きな波なのではないかと思える。
日本のアニメーション映画は巨大な市場
「国民的アニメ映画」の魁(さきがけ)となったのは、言うまでもなくスタジオジブリの宮崎駿監督作品だろう。だが、よく知られているように、『風の谷のナウシカ』から『となりのトトロ』までの、名作と名高い初期の作品は実は観客動員100万人や15億円にも達していない。宮崎駿が人気アニメ監督となったのは『魔女の宅急便』から、そしてジブリが国民的アニメとして不動の地位を築いたのは1997年の『もののけ姫』からなのだ。
そして2001年の『千と千尋の神隠し』でベルリン国際映画祭での金熊賞と、308億円の興行収入という「質と量」の同時達成を成し遂げたあと、宮崎駿の作品は、『ハウル』『ポニョ』『風立ちぬ』のように必ずしも万人に分かりやすくない、抽象的で黙示的な作風に傾いたにも関わらず、いずれも100億円超級の興行収入を記録するようになる。
興行収入が100億円を超えるというのは、20世紀の日本ではとてつもないことだった。『南極物語』の110億円が、1997年に『もののけ姫』に破られるまで興行収入記録の不動の1位だったことはよく知られているが、ハリウッド映画ですら20世紀においては『E.T.』や『ジュラシック・パーク』『スターウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』などの、世界の映画史に残るエンターテイメント作品が100億円を超えたにすぎない。
だが『もののけ姫』から『千と千尋』を経て、宮崎駿作品の新作すべてが当たり前のように100億円を越えるようになっただけではなく、新海誠作品『君の名は。』『天気の子』のように、宮崎駿以外にも『南極物語』を越える100億級ヒット作品が生まれるようになった。『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』と言った、社会現象を巻き起こしたと言われるアニメ映画の興行収入が20億前後であったことを思えば、明らかに日本映画においてアニメーション映画は巨大な国民的市場に成長したのだ。