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国民性が大きな要因? 100年前から推奨されていた「時差出勤」が日本で浸透しない理由とは

『サラリーマン生態100年史 ニッポンの社長、社員、職場』より #1

定期運賃は上げる? タダにしちゃう?

 経済学者からは、定期代の過剰な割引きが混雑を招いているとの指摘が。たとえば観光地のホテルでは、客が多い繁忙期には宿泊料を高くして、シーズンオフには割引きします。それによって混雑を平均化させる狙いがあるのですが、苦情をいう人はあまりいませんよね。

 なのに、鉄道はこの経済原則に反したことをやってます。一番混雑する時間帯の利用者のほとんどが、割引きされた定期で通ってます。しかもむかしの国鉄の定期割引率がまた破格で、7割から8割引きだったんです。JRの定期割引率は現在4割から5割引きなので、いかに破格の大バーゲンだったかがわかります。公共のためとはいえ、こんなむちゃしたら商売が成り立つわけがない。

 経済原則にしたがえば、逆にラッシュ時の運賃を割り増ししなければいけないはずですし、そうすれば社員に交通費を支給する会社側が経費削減のため、積極的に時差出勤に協力したかもしれません――が、実現に到らなかったのは、当時まだ、ラッシュ時のみの定期運賃割り増しを実行する方法がなかったからです。いまなら自動改札とICカード定期券の組み合わせで実現可能ですけどね。

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 そんななか、とても刺激的な論考がありました。1967(昭和42)年の『文藝春秋』9月号に載った、真逆の「通勤電車タダ論」。鉄道マニアのおっちゃんが飲み屋で理想を語ってたんじゃないですよ。なんと、当時国鉄副総裁だった磯崎叡のマジメな提案です。

 さすがに国鉄副総裁ともなると、あたりまえだけど国鉄全体の経営状態を数字で把握して、問題点を洗い出しています。先ほどの定期割引きの問題にしても、大都市圏の定期輸送人員は総旅客輸送量の53パーセントに達するのに、定期運賃収入は総運賃収入の8パーセントにすぎない、と具体的。もしも戦後に国から指示された運賃抑制政策がなかったら、国鉄は自己資金だけで鉄道網の拡充ができたはずといいます。

 ところが現実には、鉄道の整備は国鉄が借金してやっていたのです。なぜ国は、利用者がほとんど見込めない高速道路を税金でじゃんじゃん作るのに、はるかに公共性が高い鉄道整備に税金を使おうとしないのか、と政府を手厳しく批判しています。

 その上で、国がもしも通勤用の鉄道を税金で整備して、国鉄に運営をまかせてくれるなら、通勤運賃をタダにしてもいい、そのほうが、借金まみれで設備投資をするよりも国鉄はトクだから。これが通勤電車タダ論の真意です。

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