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連載昭和事件史

「これは臭くてたまらない。まずいぞ」コーヒー色の“黒い紅茶”が生み出した「日本初の青酸カリ殺人」とは

――“流行”さえも生み出した「青酸カリ殺人事件」 #1

2020/12/06
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当たった捜査本部の読み

 記事によると、京橋署員の有力な聞き込みとは、同署の寺田守巡査(26)が、浅草・千束小の訓導をしている実兄から聞いた話を思い出したこと。浅草界隈で不良として知られている鵜野洲という者が、千束小校長の印鑑を偽造して金を借りようとして失敗。校長に対して世間に公表したら承知しないと脅迫した、という内容で、人相も兄から聞いていた。

「寺田巡査は新聞を見た瞬間、その人相や年格好が、この事件の容疑者とみられる男と似ていることに気づき、もしやと思い」(「警視庁史昭和前編」)、兄に確かめたうえ、京橋署長を通じて捜査本部に報告した。

「その男というのは、浅草区千束町に店を持って運動着、作業衣、かっぽう着など、木綿の既製品商を営んでいる鵜野洲武義(27)で、常に区内の小学校に出入りして、職員から運動着などの注文を受けていることが分かった」(同書)。捜査本部の読みにぴったりだった。

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 東日号外によれば、捜査本部が周辺を調べてみると、鵜野洲は、浅草の薬局が21日朝、鍛冶職人の弟子に売った青酸カリ13匁(48.75グラム)を弟子から譲り受けたらしいことが判明。鵜野洲は青酸カリの効能を千束小の衛生婦に尋ねていたことが分かった。

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 浅草界隈を大捜査し、刑事が「しのぶ」に遊興に立ち回った鵜野洲を取り押さえ、捜査本部に連行すると、持っていた風呂敷包みから札束が3つ転げ落ちた。調べると3248円あり、「『これは何だ』と詰め寄ると、犯人は悪びれもせず『増子先生からいただいたのです』と答えた」(東日号外)。

「これは臭くてたまらない。まずいぞ」コーヒー色の“黒い紅茶”が生み出した「日本初の青酸カリ殺人」とは

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